直後、羽月は眩暈がしてふらりと前のめりに倒れかかる。
 鳳羽はそれをしっかりと抱き留めた。

 夢の中で、時間は巻き戻る。
 生まれる前、さらにその前に。
 羽月は自分が別人になっていることに気が付いた。他人の体に精神だけが寄り移ったかのうようだ。
 自分は今、金の髪をして見慣れぬ着物を着ていた。
 咲き誇る桜の下にいて、隣にいるのはやわらかく微笑む鳳羽。
 彼はそのときもまた銀の髪を長く垂らしていた。
「……、愛しているよ」
 彼は自分の名を呼んで愛を囁く。自分はふふっと笑って彼の口づけを受け取る。
 胸の中には彼への愛があった。
 自分たちは愛し合っているのだ、とわかった。
 やがて時を経て自分は老いたが、彼は若い姿のまま、彼女の手をとる。
「ごめんね、私、もう……」
 自分の口から意図せず言葉が出た。
「しばしの別れだ。すぐにそなたを見つける」
 彼は彼女のしわくちゃになった手を取り、愛おしそうに頬に寄せる。
「愛しているよ」
「私も」
 それがふたりがかわした最後の言葉となった。
 羽月はなんども生まれ変わり、そのたびに彼と巡り合い、愛し合った。