手を引かれて女中たちの間を歩き、式台玄関に案内されてまた戸惑った。このような玄関は貴賓客だけが通される玄関のはずだ。襤褸(ぼろ)をまとった自分にはふさわしくない。穴を何度も繕った足袋もまた恥ずかしい。
 躊躇なく上がる鳳羽は、立ちすくむ羽月の手を引く。
「おいで」
 言われて、仕方なく羽月は草履をぬいで上がった。
 式台玄関から続く畳の部屋には両側に花と蝶の描かれた金の屏風が飾られ、その奥へと客をいざなうように並べられている。欄間にも美しい花と蝶の彫刻。
 手を引かれて上座敷へと導かれ、鳳羽とともに座る。
 女中がお茶を運んできてふたりの前に出して下がった。
「今の名は……羽月か」
「そうですけど……」
 ためらいながら答えると、鳳羽はにこりと笑ってお茶を飲んだ。
 おずおずと手を出して、羽月も飲む。
「おいしい……!」
 思わず羽月はつぶやいていた。旨味と甘みの調和がとれており、なんとも言えずにおいしい。
 大燕家で彼女が飲めるのは水か白湯で、お茶はめったに飲めなかった。飲めたとしても出がらしの、渋みすらない味のしないお茶だった。
「どうして私を?」
「なにも覚えておらぬか。……仕方あるまい、それがそなたの宿命ゆえ」
 羽月は首をかしげる。
 鳳羽は羽月の額に手をかざした。