羽月の血を薬とするくらいなのだから、木乃伊が薬でも不思議はないのかもしれない。買って飲む人がそれを知っているのかどうかはわからないが。
 これは大燕家の秘密なのだろうか。だから当主しか入れないのだろうか。もし羽月が知ったとわかったら、どういう処罰を受けるのだろうか。
 知られてはいけない。凪のためにも、なおさら早く家を出なくては。
 そう思い、羽月は慌てて門へ向かった。
 手持ちの金銭はまったくない。風呂敷の中の古着は泥で汚れてしまっているが、売ればいくばくかにはなるだろうか。
 養い親の家に戻ったらどう対応されるのだろう。使用人してしばらくおいてはくれないだろうか。いや、すぐに大燕の家に連絡が行って連れ戻されてしまうのだろうか。やはり矜持を折ってでもお金の入った小袋をもらうべきだろうか。
 鬱々と考えながら門を出ると、またしても銀色の蝶が舞い飛んできた。
 蝶は羽月の目の前で銀色の輝きを強くして、気が付くと背の高い青年になっていた。
 歳の頃は正一と同じ二十五歳くらいだろうか。
 腰まである白銀の長い髪を垂らしていて、その瞳もまた銀色をしていた。細おもての顔は美しく、どこかこの世の人ならざる雰囲気をまとい、内側から光り輝いているようにも見える。
「会いたかったよ、私の夢見鳥」
 男性は彼女を見て愛し気に目を細める。
「さあ、行こう」
 彼に差し伸べられた手をなんの迷いもなくとる。
 どうしてだか、彼が「あの人」に違いないのだと感じていた。