銀の蝶は羽月を待っていたかのように空中に羽ばたいていており、彼女が手を伸ばすと、はらりはらりと奥へ進む。
「駄目よ、早く出て」
 通じるわけもないのに語りかけ、羽月は蝶を追う。
 蝶は厨子へと飛び進み、中へ吸い込まれていった。
 羽月は目をしばたたいた。
 厨子の扉は閉まっている。だが、蝶は間違いなく中へ入っていった。
 羽月はおそるおそる厨子に近付き、厨子の扉に手をかけた。封印をそっとはがしてそろそろと開いた直後。
「ひっ!」
 羽月は短く悲鳴を上げた。
 中にあったのは女性の木乃伊(ミイラ)だった。
 女性だと判別できたのは長い髪とその着物によるものだった。厨子の壁によりかかるように座っている。
 どうしてこんなものがここに。
 思って、記憶の隅に、木乃伊が薬になるという迷信を思い出す。
 これもまた薬の材料にされていたのだろうか。だから蔵の中にしまっておいたのだろうか。
 大燕の家は薬問屋だから、その可能性は否定できないように思えた。
 ふと見ると、再び蝶が厨子から現れた。心なしかさきほどより強く銀色に輝いているように見える。
 だが、もはや蝶になど構ってはいられない。
 震える手で扉を閉め、急いで外に出て蔵の扉を閉め、南京錠を締める。