凪は横目で部屋の隅にある古い長持ちを見ると、そちらに歩いて行った。蓋をあけて、二枚しかない羽月の着物を手にする。どれも着古して擦り切れを端切れで手直ししてある。
「なにするの?」
「こうするの!」
 凪は二枚しかない着物を手にすると土間に降りて出入り口の木戸を引き開け、ためらいなく外に放り投げる。雪の解けた地面は泥となっていて、すぐに着物に染みた。
「凪……」
 羽月は血の気のひいた顔で凪を見た。
 こんなことをする子ではなかった。
 どうしてこんな意地悪をするのだろう。それほどまでに羽月が邪魔なのだろうか。
「わかったらさっさと出て行って。これは餞別よ」
 凪は小袋と風呂敷を羽月に投げつける。
 ばし、と当たって落ちたそれを、羽月はみじめな気持ちで眺めた。小袋からは何枚かの一圓札が飛び出している。
「……わかった」
「今すぐよ、今なら正一さんはお義父様とお出かけなさっているから」
 言い置いて、凪は小屋を出て行った。
 この三年、羽月は血を取られていた。だが、羽月が来るまではそんなものがなくてもこの家も店も成り立っていたのだ。
 さらに、正一は凪を気に入っている様子だった。だからきっと彼女が酷い目に遭わされることもないだろう。
 羽月は風呂敷を持って立ち上がった。庭に捨てられた荷物をとりに行くために。