被害者には、男性も数少ないがいた。その内の一人の調査に赤井が白石と行った時だった。

その男性が働いていたクラブのママから、被害者の生前の様子を聞いた。どうやら、彼女?はゲイダンサーだったらしい。

「こんにちわ。あら、イケメンな刑事さんだこと。そちらの刑事さんも、よろしくね。
え〜、礼ちゃんね。礼ちゃんはね〜、あの子、苦労してんのよ。親にカミングアウトしたら勘当されちゃったんだって。そこの路地でホームレスしながら男に身体売ってたらしいのよ〜。なんか正気のないけどキレイな顔した男の子がいたから思わず話しかけちゃったのよね。うちで住み込みで働かない?って。少し化粧教えて、身なりを整えて、ドレス着させたのよ。しばらくしたら、早くもうちのナンバー1よ。元がキレイな顔してたからね〜。いや〜、いい拾い物したわよ〜。
亡くなって残念だわ。お客さまの一人に殺されちゃったのかしら。礼ちゃんのファン、めちゃくちゃ多くて。私に内緒で、礼ちゃん、枕営業までしてたって聞いて、驚いたの何のって。一応禁止にしてるから、一応ね。私情のもつれってやつかしら?犯人、目星ついてるのかしら?内緒で教えてくれない?ダメなの?守秘義務ってやつかしら?あら、そう。
それより、この後、うちのショー観にいらっしゃい。そちらのお兄さん、イケメンだから、特別にアフターもつけてあげるわ。私よ、嫌?あら、そう。」

クラブのママには、礼がどのような死に方をしたか伝えていない。あんな悲惨な状況だと知れば、こんな冷静にはいられないだろう。
ママから、礼の生前の写真を見せてもらった。
すると、白石が感嘆の声をあげた。
「めっちゃキレイな人っすね。男性って言われなければ、僕、気付かず、好きになっちゃいそうっす。ねぇ、赤井さん?」
「あぁ、そうだな。」
赤井は困った顔をしながら、相槌を打った。
「そうなのよ〜。だから言ってるじゃない。うちのナンバー1なのよ。化粧も上手でね。前に、秘訣聞いたら、インスタだか、YouTubeだか忘れたけど、その人のマネしてるって聞いたわ。あ〜、これから、どうしようかしら。稼ぎ頭がいなくなってしまったから、またスカウトしなきゃ。」

ママのその言葉を聞いても、赤井には、写真の中で微笑んでいる礼は、女装した普通の男性にしか見えなかった。化粧でごまかしても、骨格や角張ったエラの張った顔が、どう見ても男性のものだった。赤井の美の基準とはかけ離れている。

白石が
「せっかくママがショーを観に誘ってくれてるんだから、赤井さん、行ったらよかったじゃないですか。僕は誘われてないですし、ママ、赤井さんのことしか見てなかったでしょ?僕なんか一回もママと目を合わせてもらえなかったですよ。あのママ、結構、僕のタイプだったのに、チッ。」
と舌打ちをした。