通常の人間の体液濃度は、常に弱アルカリ性に保たれている。これは、全身の細胞が、この範囲内でしか機能を発揮できないからだ。
そのため、酸性度合いが強い、アシドーシスという状態に陥った場合、以下のような症状が起こる。
浅く不規則な呼吸、血圧低下、不整脈、頭痛、ショックなどだ。

検死の結果で判明したことがある。
ILLYの販売した染色剤は、人間の身体を、一定時間を置いて、一気に酸性に近い状態に持っていき、人間を死に至らしめる効果のある物なのではないかということだ。
ただ、一定時間を置いて人間の身体を溶かすなんて、現在の科学では解明できない。
インド等で不倫の疑いをかけられた妻が夫の親族に硫酸をかけられる風習があるが、硫酸などは、かかった直後に皮膚が溶けるからだ。

ILLYは12月1日の配信中に、染色剤らしきキャラメル状の物を口に入れ、髪に吹きかけた。数日後、舌の感覚がなくなっていき、顎にも違和感を感じるようになっていったのだと思われる。
まだ話せるうちにと購入者に、染色剤の危険性を訴えて、使うなと、忠告したかったのだろう。

「青、いかが…買え…青、青、いかが…買え、買え、買え!
買え〜!!!」
その時、既に舌が使えなくなっており、顎も崩れかけていたために、うまく発音できずこう聞こえたのかもしれない。

その後、発見されたILLYの遺体は、青くなったはずの髪は見当たらず、頭蓋骨や脳は半分以上溶けていた。また染色剤を食したことから、食道をはじめ、消化器官全体にも被害を受けたと思われる。性別の確認もできないほどに、胴体も破裂して飛び散り所々無くなっていた。かろうじて、白い足だけがドロドロの物体にくっついていた。

顎と舌に既に障害を負ったILLYは、本当は購入者にこう言いたかったのだ。
「アゴ、舌が…だめ…アゴ、顎、舌が…だめ、だめ、だめ!ダメ〜!!!」