「あ〜、なんってことだ!」
刑事の赤井は白いハンカチを取り出し、胃の中の牛丼が飛び出してこないよう、口元をおさえた。紅生姜の破片が少し喉を通過して、酸っぱい味が舌に残った。

隣にいる白石は、少しの間、気を失ってしまった。白石はまだ配属して間もないから、こんな遺体は初めて目にするのだろう。気絶して何とか意識を戻した後も、まだおえおえとえずいている。その度に白石の鼻毛が数本出たり入ったりするのをぼーっと赤井は見ていた。
「誰がこの吐瀉物を片付けなきゃならんのだ。トロい汚い奴とバディを組んでしまった。」
赤井はそう思って、白石に顎を使って面倒くさそうにこう言った。
「第一発見者に、メンタルケアと発見に至る状況を聴取するアポをとっておけ。あと、メディアへの口止めもな。」

13都道府県に住む、10代から60代の女性33人と男性3人が同時期に亡くなるという事件が発生した。

その遺体を見た、第一発見者や警察関係者は、その場で嘔吐するか、あまりにも酷い光景に気がおかしくなったという。

その遺体は全て、髪が無くなり、頭蓋骨が溶けかけて、脳味噌がぐちゃぐちゃに飛び出していた。また、顔の変形も見られた。内臓が無惨に破裂している遺体が数体あったと言う。

赤井は、一番初めに見た遺体を、頭蓋骨の器に入ったボルシチのようだと思った。サワークリームに見えた白い物は、眼球だった。

その後、何体もの遺体と対面したが、どの部屋も血と脳味噌で、赤い紅葉で彩られたようで、今の季節にぴったりの風景だと思った。何場面も見ていくうちに麻痺して、赤い風景が美しいとさえも思ってしまった。

警察は、事件を解決すべく、特別捜査本部を設置した。
まず、第一に、被害者の共通点を探すのに躍起した。何せ、場所も性別も年齢も違う。

「一体、何が起こってるんだ?大量殺人か、集団自殺か?」
赤井はセンター分けにした黒髪を掻き上げながら、牛丼を頬張った。
「赤井さん、よく平気で牛丼食べられますね。尊敬しますよ、そのタフな所。初めて遺体見た後、肉食えなくなるってあれ、本当なんっすね。僕、あれから、肉が食えないっす。でも、僕、SAWっていう映画大好きなんっすよ。」
「あのグロいやつか?ジグソウだっけか?」
「そうです。でもやっぱ実物と映画じゃ違うんっすね。今回の事件もサイコパスによる殺人事件っすかね。」
「さぁ、どうだろうな。」
「ジグソウみたいなサイコパス、捕まえてやりたいっす。僕、頑張ります!」
白石がパックのゼリー飲料を胃に流し込んでいた。

「せいぜい頑張って、俺のことも捕まえてくれ。」
赤井が白石に聞こえないように呟いた。