わたしはタダの侍女ではありません

 侍女の仕事とは? なんて思う暇なくお風呂の改築に集中し、三日で完成させた。

「あなたは侍女より職人になったほうがいいかもしれないわね」

 侍女に誘った張本人のセリフとは思えない。いや、わたしもそっちのほうが侍女とは? なんて考えることもなかったでしょうよ……。

「今日から入れるの?」

「はい。侍女に入ってもらって安全と使い心地を確かめましたので」

 もちろん、安全に安全を重ねてから入ってもらってますよ。侍女は貴族の出なんだから傷一つつけられないもの。

「そう。なら、今日から入るわ」

 ホッ。改築からの奥様の湯浴み。なかなか忙しい三日間がやっと終わるのね。いや、明日からはまた入力が始まるんだったわね。ハァー。

「シャーリー。明日はドレスを作るからミリャーダの店にいってちょうだい」

「ミリャーダの店、ですか?」

 それにドレス? なぜにドレス? 侍女にドレスなんていらないでしょう?

「夜会に呼ばれたのよ、侍女服でいけるわけないでしょう。あなたは男爵令嬢なんだから」

 あ、わたし、男爵令嬢と言う設定でした! 忙しくてすっかり頭からの零れ落ちてたわ!

「男爵令嬢として呼ばれたのでしょうか?」

「と言うよりザンバドリ侯爵家と繋がりがある者として呼ばれたのよ。あなたはわたしの娘も同然ですからね」

 つまり、わたしではなくザンバドリ侯爵の者として呼ばれたのか。

「わたし、貴族の付き合いなど知りませんが」

「ロブも参加するから大丈夫よ」

「奥様は参加しないのですか?」

 普通、夫婦で参加するものじゃないの?

「わたしも参加したいけど、その日はサミリア様と会合があるのよ」

 サミリア様? なんかどこかで聞いた名前がする。

「サミリア様は王妃よ」

 あ、あー思い出した。おばあ様が亡くなる前、王様と王妃様の結婚指輪を作ってたっけ。そこで聞いた名だったわ。

「そう言うことだからロブの指示に従うのよ」

「はい。畏まりました」

 旦那様がいるなら安心ね。

「他人事に思わないの。バンドゥーリ子爵の夜会の前に練習をするわよ」

 練習? なんの?

「いきなり夜会になんていかせられないわ。失敗しないようハリーダ伯爵の夜会に出席するわよ」

「そこでは失敗しても構わないと?」

「失敗しないことが最良だけど、あなたは状況を把握して対処するでしょう。その経験をさせるのよ」

 そう言うものなの? わたしにはよくわからないけど、いきなりよりは確かにいいかもね。ドレスなんて久しぶりに着るし。

「まあ、その前にドレスよ。あなたに合うドレスは前々から用意してあるから裾合わせだけで大丈夫でしょうからね」 

 前々からって、こうなることを予想してたってこと? 先見の明がありすぎじゃない? それとも計画してたこと?

 まあ、なんにせよ、入力地獄にならないならドレスを着ることくらいなんでもないわ。奥様の指示に従っておきましょう。

「今日はもう休んでいいわよ。お風呂の使い方は教えてあるんでしょう?」

「はい。下女の四人と担当の侍女には教えてあります」

 確認してもらうついでに使い方は教えててよかったわ。

「うん。あなたは侍女として優秀よ」

 ついさっき、職人が~とか言ってませんでしたっけ?

「次は男爵令嬢として優秀なところを見せてね」

 それには「わかりました」とは答えられません。わたし、男爵令嬢がどんなものか知らないし。

「メアリ。確か、ライネーリは男爵家の娘だったわよね?」

「はい。男爵家の次女です」

「じゃあ、問題ないわね。説明とマイナ家に手紙を出しておいて」

「畏まりました」

 なにやらわたしの知らないところで話が進んでるけど、まあ、それはいつものこと。流れているならその流れを乗りこなせばいいだけのこと。逆らわないことが大事だわ。

 退室の許可をいただき自分の部屋に戻り、マリッタに夜会の予行演習のことを話した。おそらくわたしの付き人として連れていくことになるでしょうからね。

「わ、わかりました」

 緊張気味に答えると、机に向かって手紙をしたため始めた。なに?

 まあ、いいやと、わたしはお風呂の用意を始めた。