わたしはタダの侍女ではありません

 ふー。疲れた。

 買い物へ出かけただけで一時間もの説明しなくちゃならないとか、おば様も容赦がない。日誌を書くんだから簡単でいいじゃない。休みがなんなのかわかってないんじゃないの?

 まあ、いいわ。おば様も心配してのことでしょうからね。

 気持ちを切り替えて自室へと戻った。

「シャワー浴びたいわね」

 お湯玉と言う気分ではない。かと言って、侍女の身で館のお風呂を借りるのも憚られる。

「そう言えば、侍女はどうやって体を洗ってるのかしら?」

 侍女の部屋は下女が掃除しているので、あまりよく見て回ってなかった。お風呂も自室だったし、食事は奥食堂ですぐ館に向かってたしね。
 
「いつも綺麗にしてたんだから湯浴みはしてるってことよね」

 侍女は身嗜みもしっかりしていたし、汚れや臭いもなかった。あれは、毎日体を洗っているって証拠だわ。

 一旦気になると落ち着かない性分。鎮めるために自室を出て探──すこともなく、下女がそれらしいところを掃除していた。

「どうかなさいましたでしょうか?」

 開け放たれたドアから中を見ていたら掃除していた下女たちに気がつかれてしまった。

「仕事中ごめんなさいね。ちょっと気になったものだから見せてちょうだいね」

「は、はい。畏まりました」

 湯を沸かす竈門が三つあり、奥に板を敷いた洗い場があった。

「侍女はここで体を洗うのかしら?」

「はい。そうでございます」

 変な質問にも関わらず、下女は不可解な顔を見せずに答えてくれた。

「あと、ここを使う時間は決まっているのかしら?」

「いえ、特に時間は決められておりませんが、大体夜に交代で湯浴みをします」

「朝はしないの?」

「夜勤明けの侍女様が使用します。あと、お声をいただければ桶に湯を入れてお部屋に運びます」

 あら、そんなことしてたのね。全然気がつかなかったわ。でも、思い返せばなにかやっている物音はしてたわね。あれは、湯を運んでいたんだ。

 ……わたし、夜の間のこと、なにも知らないわね……。

「掃除してるとこ申し訳ないけど、今、使用できるかしら? 少し汗をかいたからすっきりさせたいの」

「はい。畏まりました。すぐに用意致します」

 下女たちが視線を飛ばし合い、用意に取りかかった。

 マリッタと同じくいいところのお嬢さんだろうに、なんとも手際がよろしいこと。家で掃除とか教えられるのかしら?

 お湯は常に沸かしているようで、洗い場にある大きい桶へ運んでいる。侍女でも魔道具は使われないのね。

 まあ、用意するのが魔力のない下女なんだからしょうがないか。侯爵家の侍女はおば様たちの身の回りを整えるのが仕事だものね。

 ……最近は侍女の仕事かもわからない仕事をさせられてるけどね……。

「あ、ちょっと待ってもらえるかしら」

「どうかなされましたか?」

「シャワーを浴びたいから、ちょっと弄らせてもらうわね」

 洗い場に向かい、頭上に魔法陣を展開させた。

「ちょっと小さいかな?」

 庭の水やりをするときに使用する水をやる魔法陣だけど、シャワーにするとなると小さい。全身が浴びれるくらい大きくしますか。

 次は竈門に向かい、鍋の中に魔法陣を展開。鍋のお湯を洗い場の魔法陣へと転移させるように改造した。

「さすがにこの温度じゃ火傷しちゃうわね。手が入れられるよう水を足してちょうだい」

 下女たちの仕事を奪うのもなんだから水を足すよう指示を出した。

「は、はい。畏まりました」

 下女の一人が沸くお湯に水を足していき、手を入れられる温度まで下げてくれた。

 わたしも手を入れて確かめる。うん、いい温度だわ。

「服はそこで脱げばいいのかしら?」

 棚に篭が置いてある場所を見ながら尋ねた。

「はい。お手伝いします」

 服くらい一人で脱げるけど、手伝うのも仕事なんでしょうと下女たちに手伝ってもらいながら服を脱いで裸となった。

 洗い場へと向かい、開と閉の魔法陣を展開させた。

「少し離れてて」

 下女たちを下がらせ、開の魔法陣を触り、頭上の魔法陣を発動させた。

 じょうろで水が出るくらいの圧でお湯が降ってきた。

 圧力ではなく重力での落下だからお湯の威力がいまいち。まあ、汗を流すだけだし、こんなもんでいいでしょう。

 あ、シャンプーを持ってくるの忘れた──けど、ま、いっか。寝る前にまた入り直せばいいんだしね。

 汗を流したら閉の魔法陣を触り、お湯を止めた。

「どうぞ」

 と、差し出されたタオルを受け取り、顔を拭いた。ふー。さっぱり。

「お体、お拭きします」

「ありがとう」

 下女二人に体を拭いてもらった。侍女ってこんなこともされるのね。

「髪を乾かします」

「あ、そうだったわね」

 温風を出す魔法陣を展開させて髪を乾かした。

「ふー。さっぱりした」

 また下女の手伝ってもらって服を着た。あ、下着は自分で穿きましたから。

「掃除しているところありがとう。とても助かったわ。これは内緒のお礼よ」

 スカートのポケットから徳用チョコレートを下女たちにあげた。

「他の下女には内緒だからすぐ食べちゃいなさい」

 渡した徳用チョコレートをすぐに食べるよう勧める。

「……美味しい……」

「……甘い……」

「ふふ。あ、モルティーヌでお土産を買ってきたからマリッタから受け取ってね」

 展開させた魔法陣を消し、部屋へと戻った。

 さて。シャンプー作りをやりますかね。