で、ミアの髪は見違えるように回復された。うん、完璧!

「……ひ、人の髪って、ここまで綺麗になるものなんですね……」

 それはわたしの魔法があってこそ。シャンプーで洗っただけではこうはならないわ。

「しばらくこのままだから、輝きが失われてきたらまた洗ってあげる」

 これをお付きの者にやらせるのは酷ってもの。また外出届けを出して帰ってきなさい。

「ありがとう、シャーリーねえ様!」

 やはり髪が美しくなるのは嬉しいようで、鏡に写る自分を見回している。

「さあ、もう一度湯に浸かって体を温めなさい」

 お湯玉を解除して蜜柑湯に浸からせ。

「おば様。そろそろマッサージしましょうか?」

 あまり長湯してものぼせるでしょうからね。

 侍女様に目配せして台を入れてもらった。

 日頃からマッサージをしているようで、侍女たちの動きに迷いはない。十数える前に用意してしまった。お見事です。

「いつもマッサージしている方はどなたですか?」

 それらしいのは三人いる。おそらくマッサージ専門の侍女でしょう。さすが侯爵夫人は凄いわ。

「わたしどもです」

「これからこの油を使ってください。乾燥時に使うと肌はしっとりと潤いを与えてくれますので」

「シャーリー、それは?」

「ロド産の薔薇油です。おば様の肌に合うと思いますよ」

 人の毛穴もそれぞれで、肌によって合う合わないがある。城に置いてあるおば様用のオイルが薔薇系だった。

「ロド産? 若い頃に使ったけど、あまり合わなかった記憶があるけど?」

「おば様。年齢や環境、生活習慣が違えば肌の質も変わりますよ。若い頃は合っていても今もそうとは限りません。オイルも同じです。いろいろなオイル、いろいろな肌を学ばせたほうが知ったほうがいいですよ」

 育てるだけの財力があり、知るための肌がこんなにある。おば様一人だけを見てては腕は上がらないわ。

「メアリ、どうかしら?」

「よろしいかと思います」

 侍女長様のお許しが出たので、異次元屋で買ったオイルを出した。

「マッサージオイルがどう言うものか確かめてもらっていいですか? 人により油が体に合わない人もいます。必ず少量から始めてくださいませ」

 異次元屋の世界ではアレルギーと言ったかしら? 体が拒否反応を示すことを? この世界にもあることだからいきなり大量には止めたほうがいいでしょう。

「マティア。しっかり勉強しておいてね」

 マッサージ隊の代表はマティアさんって言うのね。

「畏まりました。ご希望に応えられるよう勉強しておきます」

 なんとも意識の高い方だこと。こう言うのをプロ根性と言うのね。

「では、おば様。始めますね」

「ええ、お願い」

 四十うん歳とは思えないおば様の体をマッサージする。

「おば様。運動してますか? 前に見たときよりお腹周りが柔らかくなってますよ」

 もっと引きしまっていた記憶があるわ。

「無茶言わないで。普通に運動しても体脂肪は燃えなくなっているのよ。それに、仕事もあるんだから時間を取れないの」

 どんな仕事をしているかわからないけど、侯爵夫人ともなればやることはいっぱいあるのでしょう。

「なら、マッサージで体脂肪を燃焼させるしかありませんね」

「それ、外で言ってはダメよ。そんなこと知れたらわたしの仕事が増えるんだから……」

「楽して痩せたいだなんて邪道ですよ」

 健全な体には健全な精神が必要だ。楽な思考は体をダメにするものよ。

「人は楽を求めるものよ。ましてや貴族のご婦人ともなれば、ね」

 確かにそうね。わたしも楽を求めるときあるし。

 筋肉痛にならないていどの微弱な振動を与えながらお腹周りをマッサージする。

「あ~気持ちいいわ~」

「眠らないでくださいね」

 眠っちゃったら侍女たちが大変になるんだから。

「……これ以上気持ちよくなったらがまんできないわ……」

 なら、眠らないよう強い振動にしますか。ほいっと。

「こ、これはロブが欲しがる振動だわ」

 おじ様も運動不足な感じだし、足のマッサージでもしてあげましょう。あと、頭もね。

「シャーリーねえ様、わたしもマッサージして欲しいです」

「ミアはまだ必要ないでしょう」

 普通に運動をして筋肉をつけたほうが体が解れるわよ。

「シャーリーねえ様にマッサージしてもらいたいです!」

 もー。しょうがない子ね……。

「わかったわ。マッサージしてあげる。おば様。軽くオイルを流して上がってください。お酒でない水分を摂ってくださいね」

「今、キンキンに冷えたビールを飲めたら死んでもいいわ」

「水を飲んでまだまだ生きてください」

 侍女長様に任せ、敷物を代えてミアをうつ伏せにして寝かした。

「ちゃんと運動はしているようね」

 お尻がよく引き締まっているし、背中に無駄な肉がない。女性としてのふっくりを好む男性からは支持を受けないでしょうけどね。

「最近は令嬢でも剣を使えないといけませんから」

「貴族のご令嬢も大変なのね」

 物語のお姫様ならお茶会したら舞踏会に出たりなのに、この世界では武術も求められるのか。夢見る女の子には見せられない現実ね……。