館の厨房はおじ様やおば様に出すからか、どの魔道具も高性能。城の厨房にも負けてない。理想に近いカップケーキができたわ。

 試食しても合格点は出ている。強いて足りないことを言えば材料かしらね。

 侯爵の口に入るものだから食材は一流のものでしょうが、異次元屋で買えるものは二段階くらい上をいっている。超高級なものは芸術品と思えるくらい質がいいわ。

 ……値段も芸術品級だけどね……。

「シャーリーねえ様、美味しいです!」

「ケーキも美味しかったですけど、カップケーキも凄く美味しいです!」

「難しい工程ではないのに、ここまでの味が出せるとは。菓子とは奥が深いです」

 ミローノさんも満足ならカップケーキは成功としておきましょう。

「ミゴリ。裏で作ってみて。違いが知りたいから」

 あちらで作って大丈夫なら夜のおやつになるでしょうよ。

「お、おれが作るんですか!?」

「そうよ。カップケーキならミゴリでも作れるでしょう。完璧に作ろうとしなくていいから」

 工程を間違えなければそこそこのは作れる。侍女さんたちにも振る舞って喜ばれれば、メニューに組み込まれるでしょう。

 不安そうに厨房を出ていくミゴリ。まあ、がんばりなさいな。

「お嬢様。チョコレートを湯煎してください。チョコレート入りのも作って、奥様に出してあげましょうか」

 持っていかないとうるさそうだしね。

「チョコレート入りならお土産にしたいです。チョコレートは滅多に手に入らないものですし、友達に差し上げたいわ」

 きっと侯爵令嬢の付き合いも大変なんでしょう。よくは知らないけど。

「では、奥様には蜂蜜入りを作りましょうか」

 最高級の蜂蜜がある。火加減さえ間違えなければ美味しくできるでしょうよ。

「あ、蜂蜜入りも食べたいです!」

「ふふ。欲張りなお嬢様ですこと」

「美味しいものには欲張りにならないと損ですわ」

 侯爵令嬢とは思えない欲張りさんなんだから。

 チョコレート入りを作ってから蜂蜜入りを作った。

「ミローノさん。蜂蜜入りを奥様たちの夕食後に出してあげてください」

 夕食前に出してお腹いっぱいにさせたら料理を作る方々に申し訳ないですからね。

「あと、カップケーキが入る入れ物はありますか?」

 まだこの世界では厚紙や包装紙は発明されてはいないけど、行楽用の籠や容器はある。侯爵家ともなればいろんな種類があるはずだわ。

「はい。用意します」

 見習いか新人さんに視線を向けると、二人で厨房を出ていった。

「チョコレート入りカップケーキは結界を施しておきましょうか。お嬢様方のお口に入るものですからね」

「シャーリーねえ様は相変わらず規格外ですね」

「お嬢様もですよ」

 おば様より魔力量は劣るけど、並みの魔法師よりは魔力を持っている。異次元屋に魔力を売れば八百ポイントにはなるんじゃないかしらね?

「魔力があるならわたしも早くスマホが欲しいわ。異次元屋で買いたいものいっぱいあるのに」

「もう少し魔力がないと無理ですね。異次元を越える魔力がないと異次元屋の扉は開かれないですからね」

 まず自力で異次元屋へいかないとならない。異次元屋もそのくらいの魔力がないと利益は得られないからね。

「もっと魔力を高める方法ってないんですか?」

「ありますよ。ただ、侯爵令嬢がやる方法ではないですね。奥様は絶対反対されるでしょう」

 わたしはおばあ様監修の元、安全(?)で健全(?)に魔力を上昇させて、十二歳で異次元屋の扉を開けたわ。

「……なら、止めておきます……」

「それが賢明ですね」

 やったら侯爵令嬢として終了するでしょうよしね。

「では、侯爵令嬢として魔力を上昇する方法はありますか?」

「う~ん。侯爵令嬢として、ね……」

 なかなか難しいわね。侯爵令嬢と言うより蕾の会でできる方法だからね。

「……無理、でしょうか……?」

「いえ、無理ではないわよ。お嬢様、朝は自分で起きます?」

「え? はい。起床のときは音楽流れますから」

 なんとも優雅な起床だこと。さすが蕾の会だわ。

「お付きの侍女はいますか?」

「はい。世話役として四人ついています」

 蕾の会、厳しいのかゆるいのかわからないわね。ちゃんとためになるところなのかしら?

「なら、なんとかなりますね」

 両耳の飾りを外し、ミアの耳につけてあげた。

「その耳飾りは魔力を溜めておく魔道具。片方で三十万ポイント分の魔力が籠められます。消灯前に耳飾りにすべての魔力を籠めてください。それを満杯にすれば異次元屋の扉を開けて魔力も上昇しますよ」

 もちろん、全魔力を籠めたら気絶するように眠り、朝は食欲旺盛になると言う、侯爵令嬢としてどうなんだろう? ってことにはなるけどね。

「何日か試してダメでしたら返してください」

 ダメと言っても納得しないでしょうから試させるのが早いでしょう。

「大丈夫だったら使っててもいいんですか?」

「はい。飾りとしてたまでですから」

 機能より意匠が気に入ってたからしてたまで。そろそろ新しいのが欲しいからミアにあげても惜しくはないわ。

「シャーリーねえ様ありがとう! 大事にします!」

 まあ、喜んでもらえるならなにより。ミアの笑顔で充分報われたわ。