馬車は城門を潜り、しばらくして停車した。

 ……玄関前じゃないわね……?

 馬車から降りると、そこは城の裏っぽかった。

 荷物を積んだ馬車や兵士さんたちもいて、ハールメイヤ伯爵家の方々がいろいろと対応していた。

 こちら側はミニーさんが代表のようで、ハールメイヤ伯爵家側といろいろ話し合っている。

 わたしは部外者なので馬車の横で静かにしていると、一人の若い兵士さんがさりげなく近寄って来た。

 ……服装からしてハールメイヤ伯爵家の兵士さんらしいけど、わたしと認識してる感じね……。

「森から鷹が参ります」

 わたしに聞こえるように囁くと、そのまま立ち去っていってしまった。

 ……あ、おじ様の黒衣《くろこ》だったのか……。

 おじ様、と言うよりザンバドリ侯爵家が抱えている影仕事をしている一族で、各地に散って情報収集したり、連絡員として働いてるって聞いたわ。

「森から鷹が来る?」

 確か森はザンバドリ侯爵家のことよね。で、鷹は……なんだっけ? なにか聞いたような気はするけど、思い出せない。まあ、来ると言うのだからおじ様が誰かを寄越すのでしょう。

「シャーリー様。中に入ります」

「あ、はい!」

 ミニオさんに呼ばれ、ハールメイヤ伯爵家の侍女さんに案内されて皆さんと一緒に中に入った。

 ここは城で働く方々の建物で、厨房や食堂もあるみたいね。

 わたしたちはそのまま建物を通り抜けると、城へと入った。

 城の裏方には入ったことあるけど、なにか古びてるわね。それに、灯りも少ないし、荷物も多い。雑だこと。

 裏から表に出て、階段を上がって三階へ。豪奢な廊下とは違い、質素な部屋へと通された。どこ?

「必要なものは揃えましたが、足りないものがありましたら声をかけてください」

 どうやら侍女の控室、って感じみたい。

「皆。確認を」

 慣れた感じで皆さんが動き出した。

 連絡役にかハールメイヤ伯爵家側の侍女さんが一人残り、扉の横に静かに立っている。じゃあ、わたしもと扉の横に立った。

 ハールメイヤ伯爵家側の侍女さんが不思議そうな顔をしてこちらを見るが、よく教育されてるのか余計なことは口にしなかった。

 ただ、なぜだかハールメイヤ伯爵家側の侍女さんは、皆さんの動きを凝視している。いや、観察してる感じかしら?

「ミニーさん。こちらは問題ありません」

「こちらもです」

 奥の部屋でなにをしているのかわからないけど、ハールメイヤ伯爵家側の侍女さんの仕事が完璧なのは理解できた。

「──皆。旦那様と奥様が下がって来るからお茶の用意を」

 と、ナタリーさんが部屋に入って来た。

 急なことにもすぐに対応する皆さん。やはり選ばれて来たのね。

「シャーリー様。放っておいてすみません。もう少しお待ちください」 

「気にしないでください。皆さんの仕事姿は勉強になりますから」

 おば様のところにいくまで侍女の仕事を学んでおかないとね。

「あの、図々しいお願いなのは承知しておりますが、夜に行われる歓迎会に出る用意をお手伝いできませんか? 旦那様の服や奥様の化粧とかシャーリー様のお力をお貸しください」

「はい。わたしで良ければ喜んでご協力させていただきますわ」

 なにもしないのも暇だし、化粧させていただけるのなら喜んでやさせていただきますよ。

「では、ガルズ様と奥様の衣装を洗濯しましょうか」

 ミニーさんにお二方の衣装を持って来てもらった。

 衣装箱が何個も運び込まれ、ベッドへと並べられた。ん? 衣装かけないの? あ、いや、そう言う文化はなかったわね。

 しょうがないので魔法で空中に浮かべて衣装の具合を確かめる。

 式典用の衣装だからほつれとかはないけど、詰め込められていたからシワがたくさんできている。それに薄汚れている。

「まずは洗濯ね」

 お湯玉を作り出して衣装の具合を確かめながらゆっくり洗う。

 薄汚れだったのに、隠れ汚れがあったのか、二度洗いになってしまった。

「いい生地なんだろうけど、頑丈ではないわね」

 異世界の技術を知っているだけに生地の強度がなんとも歯痒いわ~。

 まあ、嘆いてもしかたがないと衣装を乾かし、魔道具製のアイロンを出してシワを伸ばした。

「うん。完璧!」

 良いできに思わずニヤケてしまう。

「あとは香水をシュッシュッと」

 微かな香りつけで完了。さあ、次に移りますかねっ!