買い物を済ませ、リューケンさんとの情報交換をして異次元屋をあとにした。
異次元屋にいっているときは時間が停止しているようなものなので、二時間いてもこちらの世界では一分も過ぎてないはずだ。
「鍵がないところだとドキドキするわね」
少しのことだし、入って来ることはないでしょうけど、鍵もないところで異次元屋にいくのはちょっと心臓に悪いわよね。
「しかし、八万ポイントを得て九万ポイントを使っていては世話ないわよね」
召喚魔法陣の上に現れた荷物にため息が漏れてしまった。
次元を越える量は決まっており、一回の召喚では約一立方メートル。約百キロ(アースの単位です)までなのだけれど、限界まで買うと相当な量になるわね……。
「さて。夕食までに片付けちゃいますかね」
異世界製の肩かけ鞄──ショルダーバッグによく使うもの、化粧品を入れポーチ、ハンカチ数枚、お菓子各種、大きさの違う手鏡、八種類のブラシ、等々を入れる。
「おばあ様が収納魔法は絶対に覚えろと口酸っぱく言ってた理由がよくわかったわ」
収納魔法は異空間を作るので、並みの魔力では作れず、管理するとなると結構複雑になる。練習なしには習得することはできないわ。
ショルダーバッグに入れ終わったら前かけ──白のエプロンドレスに収納魔法をかける。
左右のポケットと裏側にある四つのポケット、胸の収納魔法陣と、鞄やショルダーバッグがなくても大丈夫なようにする。
一番大きい手鏡を壁にかけ、エプロンドレスを着て具合を確かめる。
「なかなかいいわね」
アース世界は美も発展しているから、この世界では出せない意匠だわ。
城にいるとお洒落に鈍感になるけど、こうして素敵なものを着ると心が高揚するわね。ふふ。
気分をよくしながら細々としたものを鞄に仕舞い、夕食までのんびりお茶にすることにした。
異次元屋にはたくさんのお茶があり、わたしは特にゲルセイヌ世界の豆で作った、少し甘味のあるニケ茶が気に入っている。
探せばこの世界にもあるでしょうけど、その労力を考えたら買ったほうが安い。たとえ一瓶二万ポイントかかろうともね。
ステンレスと言う金属のポットに水の指輪で水を注ぎ、火の指輪で火の玉を作り出し、ポットの底に当てて沸かした。
「……沸くまで持ってないといけないのが面倒ね……」
まあ、旅先でお湯を沸かすのも一苦労なのだからこのくらいで手間とは言ってられないわね。
お湯が沸き、タオルの上に置いて、ニケの粉をカップに入れる。う~ん。いい香り。
香りを楽しみ、お湯を入れようとして、止めた。
「……外にいるのかしら……?」
カップを卓に置き、ドアを開けてみた。
「いかがなさいましたか?」
やはりナタリーさんがいた。男爵家の侍女はいないわね。
「あ、いえ、お茶にしようかと思いまして、もしよければご一緒にいかがでしょうか?」
ただドアの前にいられるのも気が引けるわ。
「一人でお茶は寂しいので」
お仕事中だろうけど、侍女は主──じゃないけど、お客の相手をしたりする、らしい。昔、そんなことを聞いたような気がする。
「……はい。ご一緒させていただきます」
一瞬の逡巡はしたけで、了承してくれた。
「では、すぐにお茶の用意をいたします」
「あ、大丈夫ですよ。用意してありますから」
中へと勧めて、椅子に座ってもらう。
カップは何十とお揃いで買ってあり、エプロンドレスの裏ポケットに入れてすぐ出せるようにしました。
「ナタリーさんは、甘いものは平気ですか?」
女性で甘いものが嫌いと言う人に出会ったことはないけど、礼儀として尋ねないと、ね。
「……はい。平気です……」
わたしが準備していることに抵抗があるのでしょう。落ち着かない様子だ。
「ふふ。今は侍女としてのお仕事を忘れてください」
招いたのはわたし。なら、お客様はナタリーさんのほうだ。大人しく接待されてくださいな。
ナタリーさん用のカップにニケの粉を入れ、お湯を注ぐ。
「粉がちょっと底に溜まるのでかき混ぜて飲んでください」
美味しいのだけれど底に溜まるのが欠点なのよね。
「お菓子はちょっと苦いですけど、お茶に合うものにしますね」
アース世界のココアと言うものを使ったクッキーで、単独では苦いけど、ニケ茶と一緒だと、とても合うのよね。
まずわたしがやってみせる。この世界にないものですしね。
「美味しい」
これが最強の組み合わせだと思うわ。
わたしの様子を見て、ナタリーさんもココアクッキーに手を伸ばし、一口噛って、ニケ茶を飲んだ。
「……美味しい……」
思わず呟いてしまった感じね。フフ。
「それはなによりです。これ、わたしの好物なんですよ」
放り出されたときは不安でしょうがなかったけど、ニケ茶が飲めるならもう怖いことはないわ。いや、それは言いすぎだけど。
「とても美味しいですね。なんと言うお茶ですか?」
「ニケと言う豆から作ったお茶です。ゲルセイヌと言う国ではよく飲まれているそうですよ」
異世界があることは秘密ではないけど、異なる世界があることすらわからない人に説明するのは難しいので国ってことにします。
「貴重なものをいただいてよろしいのですか?」
「お茶は飲んでこそ。大事に抱えててもしかたがありませんわ」
封を切ったら一月以内に飲まないと風味がなくなっちゃうのよね。
「こう言っては失礼ですが、シャーリー様は変わっていますね」
「そうですね。よく言われます」
城と言う特殊な環境で育った自覚はあるし、一般教育を受けもしなかった。おば様には貴族令嬢の教育はちょっとだけ受けたけど、姫様姫様と持ち上げられたもの。いくらわたしが世間知らずでも異常なのはわかるわ。
「なので、一般的なこと教えていただけると助かります」
特に侍女のことを教えていただけると幸いです。
異次元屋にいっているときは時間が停止しているようなものなので、二時間いてもこちらの世界では一分も過ぎてないはずだ。
「鍵がないところだとドキドキするわね」
少しのことだし、入って来ることはないでしょうけど、鍵もないところで異次元屋にいくのはちょっと心臓に悪いわよね。
「しかし、八万ポイントを得て九万ポイントを使っていては世話ないわよね」
召喚魔法陣の上に現れた荷物にため息が漏れてしまった。
次元を越える量は決まっており、一回の召喚では約一立方メートル。約百キロ(アースの単位です)までなのだけれど、限界まで買うと相当な量になるわね……。
「さて。夕食までに片付けちゃいますかね」
異世界製の肩かけ鞄──ショルダーバッグによく使うもの、化粧品を入れポーチ、ハンカチ数枚、お菓子各種、大きさの違う手鏡、八種類のブラシ、等々を入れる。
「おばあ様が収納魔法は絶対に覚えろと口酸っぱく言ってた理由がよくわかったわ」
収納魔法は異空間を作るので、並みの魔力では作れず、管理するとなると結構複雑になる。練習なしには習得することはできないわ。
ショルダーバッグに入れ終わったら前かけ──白のエプロンドレスに収納魔法をかける。
左右のポケットと裏側にある四つのポケット、胸の収納魔法陣と、鞄やショルダーバッグがなくても大丈夫なようにする。
一番大きい手鏡を壁にかけ、エプロンドレスを着て具合を確かめる。
「なかなかいいわね」
アース世界は美も発展しているから、この世界では出せない意匠だわ。
城にいるとお洒落に鈍感になるけど、こうして素敵なものを着ると心が高揚するわね。ふふ。
気分をよくしながら細々としたものを鞄に仕舞い、夕食までのんびりお茶にすることにした。
異次元屋にはたくさんのお茶があり、わたしは特にゲルセイヌ世界の豆で作った、少し甘味のあるニケ茶が気に入っている。
探せばこの世界にもあるでしょうけど、その労力を考えたら買ったほうが安い。たとえ一瓶二万ポイントかかろうともね。
ステンレスと言う金属のポットに水の指輪で水を注ぎ、火の指輪で火の玉を作り出し、ポットの底に当てて沸かした。
「……沸くまで持ってないといけないのが面倒ね……」
まあ、旅先でお湯を沸かすのも一苦労なのだからこのくらいで手間とは言ってられないわね。
お湯が沸き、タオルの上に置いて、ニケの粉をカップに入れる。う~ん。いい香り。
香りを楽しみ、お湯を入れようとして、止めた。
「……外にいるのかしら……?」
カップを卓に置き、ドアを開けてみた。
「いかがなさいましたか?」
やはりナタリーさんがいた。男爵家の侍女はいないわね。
「あ、いえ、お茶にしようかと思いまして、もしよければご一緒にいかがでしょうか?」
ただドアの前にいられるのも気が引けるわ。
「一人でお茶は寂しいので」
お仕事中だろうけど、侍女は主──じゃないけど、お客の相手をしたりする、らしい。昔、そんなことを聞いたような気がする。
「……はい。ご一緒させていただきます」
一瞬の逡巡はしたけで、了承してくれた。
「では、すぐにお茶の用意をいたします」
「あ、大丈夫ですよ。用意してありますから」
中へと勧めて、椅子に座ってもらう。
カップは何十とお揃いで買ってあり、エプロンドレスの裏ポケットに入れてすぐ出せるようにしました。
「ナタリーさんは、甘いものは平気ですか?」
女性で甘いものが嫌いと言う人に出会ったことはないけど、礼儀として尋ねないと、ね。
「……はい。平気です……」
わたしが準備していることに抵抗があるのでしょう。落ち着かない様子だ。
「ふふ。今は侍女としてのお仕事を忘れてください」
招いたのはわたし。なら、お客様はナタリーさんのほうだ。大人しく接待されてくださいな。
ナタリーさん用のカップにニケの粉を入れ、お湯を注ぐ。
「粉がちょっと底に溜まるのでかき混ぜて飲んでください」
美味しいのだけれど底に溜まるのが欠点なのよね。
「お菓子はちょっと苦いですけど、お茶に合うものにしますね」
アース世界のココアと言うものを使ったクッキーで、単独では苦いけど、ニケ茶と一緒だと、とても合うのよね。
まずわたしがやってみせる。この世界にないものですしね。
「美味しい」
これが最強の組み合わせだと思うわ。
わたしの様子を見て、ナタリーさんもココアクッキーに手を伸ばし、一口噛って、ニケ茶を飲んだ。
「……美味しい……」
思わず呟いてしまった感じね。フフ。
「それはなによりです。これ、わたしの好物なんですよ」
放り出されたときは不安でしょうがなかったけど、ニケ茶が飲めるならもう怖いことはないわ。いや、それは言いすぎだけど。
「とても美味しいですね。なんと言うお茶ですか?」
「ニケと言う豆から作ったお茶です。ゲルセイヌと言う国ではよく飲まれているそうですよ」
異世界があることは秘密ではないけど、異なる世界があることすらわからない人に説明するのは難しいので国ってことにします。
「貴重なものをいただいてよろしいのですか?」
「お茶は飲んでこそ。大事に抱えててもしかたがありませんわ」
封を切ったら一月以内に飲まないと風味がなくなっちゃうのよね。
「こう言っては失礼ですが、シャーリー様は変わっていますね」
「そうですね。よく言われます」
城と言う特殊な環境で育った自覚はあるし、一般教育を受けもしなかった。おば様には貴族令嬢の教育はちょっとだけ受けたけど、姫様姫様と持ち上げられたもの。いくらわたしが世間知らずでも異常なのはわかるわ。
「なので、一般的なこと教えていただけると助かります」
特に侍女のことを教えていただけると幸いです。