ここは、異世界の人々から異次元屋と呼ばれている。

 まあ、正式には高岡三郎商店として国に登録し、裏では魔術結社が経営しているのだがな。

 おれは多治見竜健《たじみりゅうけん》。異次元屋を仕切る魔術師の一人──と言えば格好いいが、まだ見習いで使い走りでしかない立場だ。

「竜建。ちょっといいか」

 魔導ルームで異次元屋のレイアウトを変えていると、上司でオヤジの竜慈がやって来た。

「はい、どうしました?」

 上司でありオヤジではあるが、ここでは師弟の間柄だ。口調には気をつけなくちゃならないのだ。

「今日から店に立ってくれ」

 はぁ? 店に立つ、だと?

「な、なにかありましたか?」

 導師は異次元屋の総責任者であり異次元管理も行っている。

 異世界の技術文化はいろいろで、この世界より発展しているところもあれば遅れているところもある。

 発展したところはいい。法と秩序があるから。だが、遅れているところは法もなければ無秩序だ。魔王なんて野蛮人もいるところもあるほどだ。

 まあ、魔王がいるところはまだマシと言えよう。力で従えさせているのだから。問題は異世界の存在を知らず、ただ己の欲のために異世界人を召喚したり渡ろうとしたりするバカがいる世界である。

 さらに最悪なのは異世界転生をしたバカは最悪だ。法も守らず無秩序に世界と世界を無理矢理繋いで異次元を荒しやがるのだ。

 世界と世界の狭間はまだ解明されていないが、ある程度は理解され、無理にこじ開けると次元崩壊する。

 まだ人一人くらいならいい。だが、三メートルくらいになると、ちょっとした町がなくなるほどの衝撃を生むのだ。

 この世界は、太古の時代より魔術結社が暗躍してきたから次元崩壊は起きてないが、いくつかの世界で星が割れるくらいの次元崩壊を起こしたことがあると聞く。この世界に逃げて来た者もいるのでそれは確かなのだろう。

 魔術結社には次元管理局もあるが、異世界人との交流は異次元屋だ。つまり、導師が今繋がりがある異世界人を管理していると言うこどだ。

 その代表を任せる。これは異常事態か非常事態のどちらかだ。

「いや、入店が多くなってな、アルベガルの世界を任せたいのだ」

 アルベガル? は、確か、レベルBの世界のはず。あ、ちなみにSはこの世界より発展した世界。Aは同等。Bは下だ。まあ、大まかな区別で、危険度や重要度もあったりするから下っぱにはわかり難いところがあるな。

「アルベガルの利用って少なかったですよね?」

 魔力供給度はランクAにはいるが、利用者は十人もいなかった、はず?

「ああ。少ないな。だが、上客だ。失礼があってはならん。顧客名簿を見て情報を頭に叩き込んでおいてくれ」

 と、顧客情報のファイルを渡された。

 利用者が少ないのにちょっとした文庫本くらいの厚さがあった。マジかよ……。

「よく来店する人は若い女性だ。失礼はするなよ」

 それはいい。魔術結社なんて男社会だし、女がいたとしても百年は生きてるバ──いや、賢女ばかり。若いのはいない。いたとしても修行中で関係も結べないよ。

 顧客名簿を開くと、利用者の写真が貼られていた。

 頻度が多いのはシャーリーと言う十八歳の女性と年齢不承の美人。三番目は……魔王か。魔王がいる世界なんだ。

 異種族はいないが、精霊や魔物、竜とかいるのか。これは神の采配を受けた世界かもしれないな。

 神の存在はまだ解明されてはいないが、神に近い存在がいることは各異世界で認識されている。精霊とかいる世界は特に神の存在は濃いものになっている。

「顧客情報と言うよりアルベガルの歴史書だな」

 魔術師としてたくさんの知識を修めて来たが、世界を知るには時間が足りない。まずは顧客情報を中心に覚えよう──としたが、スマホが鳴った。

 S級世界、リガルド製のもので、クラスAの魔力保持者しか使えないものだ。

 この世界より魔術も科学技術も千年先をいってるので、おれにはまったくわからない仕組みだが、この世界に合わせて造ってくれてるので操作は熟知している。

 急いでアラームを消し、異次元屋へと向かった。

 あちらの世界とこちらの時間軸は違うので、あちら異次元屋に入っても霊体がこちらに来るまでには時間がかかるのだ。

 異次元屋の制服に着替え、所定の魔法陣に立つ──と、薄紫の髪をした美女が現れた。

「いらっしゃいませ、シャーリー様。異次元屋にようこそ」

 それが長い付き合いとなるシャーリー様との出会いだった。