今日はドラマの撮影で海に来ていた。
ドラマ撮影の待機時間、しゃがみながら白桃大知と海を眺めていた。白桃大知が『遥斗くん、日焼けしちゃう』と心の中で呟き、マネージャーから黒い日傘を借りてきて今何故か白桃大知がさしてくれていた。
「なぁ、どうしよっか、ユニット名。なんか思いついた?」
「名前……」
『どうしよう、まだ思いついてない。訊かれてるのに答えられない……』
この質問は白桃大知を追い詰めるのか?
「まぁ、そんな大事なこと急に決められるわけないし、お互いに考えておこうか」
「はい、分かりました」
とは言ったものの、思いつくだろうか。
「そういえば、歌上手いけど、何かやってたの?」
「小さい頃、習わされていました」
習わされていた……。
「嫌々やってたの?」
「いやいやというか、物心ついた時からレッスン通っていたので、学校の勉強みたいな生活の一部みたいなものだった感じですかね……」
「そうなんだ……」
白桃大和は本当に歌が上手かった。俺のソロ曲はもちろんのこと、グループ時代の曲も全て頭にはいっているらしく、家の中で「歌ってみて」と言えば照れながら、いつでも聴かせてくれていた。ふたりのデビュー曲のメロディーと歌詞もすぐに覚えて、その才能が羨ましく思えた。見た目もよく、才能も溢れている白桃大知は何故自分のファンなんだろう。
「前も聞いたけど、白桃はどうして俺のファンになったんだろうな……結構前からイベントにいつも来てくれていたよね?」
「えっ?」
『なんでバレてるんだ? あんなにファンがいる中で……それに僕は顔を隠していたのに。なんでなんだ?』
「覚えていたのは、心の中の声が周りとなんか違ってたから……」
「心の中?」
「うん……あっ、いや、なんでもない」
思わず俺の能力の話をしそうになった。
誰にも言えてないことだけど、白桃大知なら信じて受け入れてくれるのか?
どうしてファンなのか?って質問からスタートし、気がつけば出番まで沢山質問をしていた。
普段暇な時はなにをしているかとか。ちなみに「特に何も。今は遥斗くんに釣り合うためのレッスンや自分磨きです」と答えていた。心の声も『釣り合って迷惑をかけたくない。そして支えるんだ』と。裏表にズレはひとつもなかった。
もっと、白桃大知を知りたい。
全ての白桃大知を知りたい――。
***
仕事も白桃大和との同居生活も、全てが順調に進み、ユニット名もついに決まった。
7月の暑い日だった。
「balloon flowerって名前どうでしょうか?」と、オフの日、家で一緒に冷たい蕎麦をすすっていた時に突然提案してきた。
「なんで? バルーンフラワーって風船みたいな入れ物に花が入ってるやつ? あれ、ファンからもらったことあるけど、可愛いよな」
「それもありますけど、こないだ映画をみていると桔梗って花が出てきて花言葉が僕が遥斗くんに対して思っている……あ、それはどうでもよくて」
急によそよそしい態度になる白桃大知。
聞こえてくる心の声でその理由は解決した。
『だって、花言葉は永遠の愛で、遥斗くんへの想いと同じだから……』
心の声が聞こえてきて喉に蕎麦が引っかかりむせた。
距離が近づいても相変わらずファンでいてくれて、近くでこんな感じの本音が聞こえると、こんな暑い日も気持ちいい風が通過していくようで心地よい。心の声にお礼を言いたくなる日々だけど、言えなくて。少し複雑な気持ちにもなった。
今も花言葉の件は何も反応出来ない。
話も濁してきたから、あえてスルーした方がいいのか。
「いい名前だな。なんか俺らが風船の中に入ってるみたい」
「一緒に風船の中……」
白桃大知はぼそり呟く。
『遥斗くんは美しい花だけど、自分も釣り合うような花となれるのか?』
白桃大知こそが花だと思う。無自覚だけどかなりレベルが高い外見だし、歌も上手いし。それも伝えたいけど、白桃大知が心の中で呟いている言葉だから伝えれなくてもどかしい。
***
白桃大知と過ごしていくうちに、イベントに来てくれていた時から特別な感じはしていたけれど、だんだんといなければいけない存在になっていった。
balloonflowerのデビュー曲のレコーディングやMV、宣伝用の撮影も次々とこなしていく。
ドラマの撮影も後半に差し掛かり、順調だ。
ドラマの放送もはじまった。
お互いに仕事のない日は、ソファで並んで一緒に観ていた。
ドラマの反応も気になったから、SNSもチェックしながらテレビを観る。俺への反応もすごかったけど、白桃大知の反響はもっとすごかった。
『遥斗くんの相手の人って、遥斗くんのアカウントで前一瞬流れてきた人だよね?』から始まり、白桃大知について深堀りされ、子供時代にドラマやCMにいくつか出ていたことまで発掘されていく。小学生ぐらいの時の白桃大知が写っている写真や、映像までも流れてきた。SNSで流れてきた白桃大知の子供時代は、目がはっきりとしていて、可愛さとカッコ良さが共存している雰囲気だった。なんと賞を沢山受賞している実力派俳優が父親らしい。
知らない世界を知れるネット世界の広い情報網は、恐ろしくもありすごいなとも思える部分。知らない白桃大知を、ネット世界を通して知ってゆく。
「白桃は、演技上手いなって思ってたけど、ドラマとか小さい時に色々出てたんだね」
「はい、そうです」
『遥斗くん、今演技上手いって僕のことを……でも遥斗くんに比べたら上手くないし。遥斗くんは本当に全てが完璧で……』
いや、演技は俺よりも上手い。
振り返ってみれば、白桃大知は撮影前にやる本読みやリハの時から、多少のムラはあったけれど上手かった。そして、憑依体質というか、本番になるとすっと完全な役になれるタイプ。
そんな白桃大知は、表では言葉数が少ないけれど、相変わらず心の中では褒めちぎってくれる。白桃大知が隣にいるようになってからは、自己肯定感も高くなった。ひとりの時には、自分にがっかりして落ちる所までひたすら落ちていたけれど、その現象が最近は起きていない。気持ちが安定している。
「ずっと、隣にいればいいのに」
横にいる白桃大知を見つめていたら、自分の心の内の言葉が無意識のうちに外にこぼれた。それに気がついたのは、白桃大知が「えっ?」といいながら驚いた表情をしてこっちを見たから。
「いや、ごめん。間違えた」
何も間違えてはいないけど。
『遥斗くんは何を言っているんだろう。隣にいてほしいってのは、僕? いや、まさかな。ドラマ? ドラマの役に入りきっている? うん、そうだ。きっとそうなんだ……』
白桃大知の心の声は興奮気味だった。隣にいてほしいってのは、役に入りきってるわけじゃなくて――。
「活動、一緒に頑張っていこうな!」
「……はい。よろしくお願いします」
『活動についてのことか……』
活動だけではなくて、全ての生活についてなのにな。こういう時だけいつもとは逆に、白桃大知が俺の心を読めたらいいのにとも思う。
***
ドラマは12月に最終回予定で、12話まである。第11話のストーリーが終わった時に〝重大発表〟の文字と共にダブル主演の俺らがリアルにユニットを組んでデビューすることと、デビュー曲が、ドラマの中でふたりが歌っている曲だということが発表された。白背景のスタジオで俺と白桃大知が交互に説明をする。
「このたび、ドラマのW主演を務めている瑠依こと遥斗と」
「晶哉を演じている僕、大知は」
「「リアルにユニットを組んでデビューすることが決まりました。ユニット名はballoonflowerです」」
「これは現実の話なので、晶哉と瑠依ではなく、大和と遥斗としてですが、なんと! ドラマの題名でもあり、ドラマの中で晶哉が作詞し、ふたりで歌った『恋煩いと願い』がballoonflowerのデビュー曲となります」
「僕らにとって、ドラマの中で歌った曲であり、デビュー曲ともなるとても思い出深い曲となります。歌詞もメロディーもご覧いただいた通りに素敵なので、ぜひ発売されましたらよろしくお願いします」
「そしてなんと、ミュージックビデオが来週このドラマの枠内で初披露されます。化粧品メーカーのy.a-collect様とコラボしたシーンもあり、内容が濃く、そして綺麗で素敵な仕上がりになっていますので、こちらも楽しみにしていてください」
「今週もご覧いただきありがとうございました。SNSに『#恋煩いと願い』とハッシュタグをつけて素敵な感想を書いてくだされば嬉しいです」
「尚、見逃し配信も~」
「「それでは次回最終回予告、スタート!」」
SNSを覗くと、コメントが秒単位で書き込まれ、一気に増えてくる。
「発表された直後にballoonflowerのアカウント開設するから、ふたりのプライベートをそこに投稿してね」とマネージャーに言われていた。
早速新しく作られたSNSのアカウントにマネージャーが『水樹 遥斗と白桃 大知のユニット、balloonflowerのアカウントです。本人たちやスタッフが呟きます。よろしくお願いします! #水樹遥斗 #白桃大知』とすでに呟いていた。俺も自分のアカウントに『この度、ユニット結成記念として、balloonflowerのアカウントを作りました。チェックしてくださると嬉しいです!アカウントは~』と呟く。
俺のアカウントで呟く前に、常に俺らの情報に敏感でいてくれるファンが新しいアカウントを見つけてくれていて、すでに広げてくれていた。フォロワー数も秒刻みで増えていく。
その日から撮りためていたふたりのプライベート写真や映像も世間に披露された。間違えて前にアップした、オムライスを食べている動画を、白桃大知のシーン多めに再編集して再びアップすると、すぐにコメントがついていく。いつもコメントをすぐにくれる常連のファンが「あの時すぐに消えたやつですね。食べてる風景癒されます!」と気が付き書いてくれていた。
ドラマの視聴率もよく、反応もいい。
そうして最終回の12話目をついに迎えた。
最終回。22時から放送で、放送時間の5分ぐらい前になるとリビングのソファにふたり並んで座った。途中ラブシーンが流れてきた。
ふたりが喧嘩別れしたままお互いに別の仕事で忙しくなりすれ違う。そしてお互いに会いたいと願い、空港で再会したシーン。
「晶哉と離れたくない……もうお前を離さないからな! 覚悟しろ」
晶哉は無言のまま、俺を包み込むように抱きしめた。気持ちが高ぶりキスしながら抱きあうシーンだ。
横で一緒に観ている白桃大知の心がちょっと気になる。俺らのラブシーンを観ているけれど、隣にいる俺を意識して恥じる気持ちが今、少しでもあるのだろうか? それともドラマと現実は完全に違うと割り切っているのか。そんな些細なことが気になるのは、相手が白桃大知だからだろう。多分他の人だったら、どうでもいい。
チラリ横目で、テレビ画面から視線を外さない白桃大知を見る。
白桃大知は、『やっぱりこのシーンの角度、遥斗くんかっこよく映ってる。自分の角度を微調整して正解だった』と、心で呟き、真剣な表情で画面を観ていた。俺が考えていたような意識はされていないけれど、俺のことを考えている。
このシーンの角度は俺がよく映るように微調整されていたのか。
ラストシーンが画面に流れた。ふたりは河川敷で微笑みながら、優しくぎゅっと抱き合った。
『遥斗くん、可愛かったな。抱きしめた感触が忘れられない……』
そう心の声が聞こえてきて、顔ごと白桃大知の方を向く。うっとりした表情をしている。動揺しつつも画面に視線を戻した。
いつもは俺のソロ曲がエンディングに流れていたけれど、今回はいつもと違い、ふたりのデビュー曲『恋煩いと願い』のイントロが流れ始める。
そしてドラマのラストシーンのカット終わりと共に、MVが放送された。
寂しそうにぽつりと咲く花は
僕の心をそっと照らし~
君の心も照らしたいと
君のとなりでそっと寄り添う~♪
ちなみにMVの映像は、ドラマの映像が主に使われている。流れはドラマの流れに沿ってストーリーが進む。視聴者にとっては、今までの回想シーンを観ている感じだ。そしてハウススタジオで別撮りしたカットが数回、間に挟まれている。
ふたりで真剣に最後まで映像を観ていた。
「MVもいいけど、この曲は歌詞が特にいいよな」
「あ、ありがとうございます」
突然白桃大知は照れだした。
何故照れたのかは、すぐに知る。
『僕の書いた歌詞を褒めてくれた……僕が遥斗くんを想いながら書いた歌詞を』
と、心の声が聞こえてきたからだ。
「えっ?」
思わず声をあげてしまった。
「どうしたんですか?」
「あ、いや……」
作詞したのって〝sirachi〟って人じゃ……。あっ、白桃大知、しらももだいち、しらち……。
この曲の歌詞は、寂しそうな君に寄り添い、生涯ともに過ごして君を幸せにしたい。世界一好きだ、愛してるという内容の歌詞だった。
俺を想いながら書いた歌詞……。
もしかして俺に対して、思っていた以上の好意が?
他のやつらだったらそんな心の声は無視するけれど、白桃大知だから気になりすぎる。
「これって、リアルな俺を想いながら書いてくれた歌詞だったりする?」
もう答えは知っているけれど、あらためて訊いてみた。きっとこの質問は、ふたりの間にある境界線を越えた質問だ。
手で口を押さえ、顔が真っ赤になっていく白桃大知。無言のままトイレに逃げていった。心の言葉とその行動……あきらかに白桃大知は俺のことをファン以上に想ってくれていて、そして歌詞の通りに俺のことを――。
鏡をみなくても分かる。
多分俺も、今の白桃大知と同じような表情をしている。
同じくらいかは分からないけれど、俺も白桃大知に対しては、相方以上の感情を抱いていた。だけどそれは越えてはいけないもので、見せてはいけないもので。
だけど――。
デビュー曲は年が明けてから発売された。俺らのユニットがデビューする情報が解禁されてからはテレビ、SNS、雑誌……メディアに今まで撮りためていたものを一気に世間に放出し、ぐいぐい宣伝していった。そのお陰もあり、話題にもなったし、デビュー曲のランキングは2位を突き放し、堂々の1位となった。
ふたりで〝おめでとう会〟と称して、ミニパーティーを開いた。いつもと違う雰囲気にしようと思い、外食を提案したのにいつものように「僕が作ります」と、白桃大知は料理を作ってくれた。だけどいつもよりも品数が多く、今日だけカロリーを気にしないで揚げ物も沢山作ってくれたから、いつもとは違う雰囲気になった。
料理を運び終えた白桃大知は、ダイニングテーブルの俺の向かい側に座る。
「それではあらためまして、デビュー曲『恋煩いと願い』が無事に発売されたのと、ランキングの1位、おめでとう!」
俺がそう言うと、赤ワインが入ったグラスで乾杯した。白桃大知はお酒が弱いからグラスに入ってるのは、ふたくちぐらいの量。少しだけなのに、それを飲んだだけで白桃大知の顔は、ほんのり赤みが帯びてくる。
全部綺麗に食べ終わって「ごちそうさまでした。こんなに食べたの久しぶりだわ。美味しかった、ありがとう」とお礼を言うと、白桃大知は微笑んで『喜んでくれて良かった』と、心の中で呟いていた。
食べ終えた後は、ソファでふたり並んで最終回の録画を再び観た。
ドラマの中での白桃大知が演じた晶哉はBL内の役割でいうと、攻めだ。パッと見るとおっとり系の晶哉よりも生意気なタイプの瑠依の方が攻めに見えるが、晶哉が覚醒?すると本領発揮し、晶哉の攻めが表面に現れてくる。
「なぁ、このドラマでは晶哉が攻めで俺が受けだけど、リアルな俺たちはどうなんだろうな……」
「攻めと受け? なんですかそれは」
「知らないの?」
そっか、俺はドラマが決まってからすぐに原作もチェックしてBLについても調べまくったけど……。白桃大知は特に何も調べてないのか。
「なんていえばいんだろう。BLで恋愛関係になったふたりの、積極的になるタイプの方が攻めで、攻めはぐいぐい攻めて、受けはそれに応える感じ?」
「あの、それって遥斗くんは僕との関係をそういう風に意識してくれてるってことですか?」
白桃大知の言葉を聞いた瞬間、心臓ごと、時間が止まった気がした。
なんでこんな質問をしてしまったのだろう。
「いや、それは……」
上手く答えれない。
「僕は、ずっと意識していますけどね」
こっちを見つめる瞳がとろんとしていている。あのワインの量だけで酔ったのか?
突然白桃大知は俺に覆いかぶさってきて、ふたりはソファの上で倒れた。
「おい、やめろ」
白桃大知は離れない。
やめろと言ったけれど、嫌ではなかった。
大切なものを扱うように、優しく抱きしめてくる。
白桃大知の体温が丁寧に伝わってくる。
それが心地よかった。
「僕、ずっと遥斗くんが大好きです。愛しています」
どう返事をするのが正解なんだと考えていたら、全身の力が一気に抜けてきた。
じっとしていると、寝息が聞こえてきた。
顔が見えないけれど、寝た?
しばらく離れないでそのままでいた。
そして白桃大知のぬくもりを感じ、寝息を聞きながら、自分の気持ちをあらためて確認する。
俺も白桃大知のことが、好きだと――。
「わっ、ごめんなさい!」
まだ薄暗い時間、小さな声で呟いて白桃大知は俺から離れた。白桃大知の温かい体温を感じていると気持ちよくなってきて、自分もいつの間にか眠っていた。
「いや、大丈夫だから、気にしないで」
「でも、遥斗くんは僕より小さくて細いから、潰れ……」
「いや、小さいっても身長175あるし、それに鍛えてるから潰れないし」
「そ、そうですよね。本当にごめんなさいでした」
「いや、それよりも、昨日の夜は、何も覚えていなくて……」
でも白桃大知の心の声は『急に抱きしめてしまい、告白までしてしまった。覚えていないふりをしてしまえば……』と。
「……覚えてるじゃん」
「えっ?」
「実は俺、人の心が読めるんだ」
無言のままこっちを見つめ、目が全開になった白桃大知。
いつかは打ち明けたいと考えていたけど。でも多分、今打ち明けるべきではなかったかも。でも俺にとってはすごく大事な出来事だったのに、逃げるように嘘をついてきたからつい……。
「やっぱりそんな特殊能力があったんだ……」
「……いや、疑わないの?」
「だって、遥斗くんは僕の特別だし。特別な人だから」
『やっぱり、遥斗くんは特別だ』
心の中でも疑わずに信じる白桃大知。
実は幼いころにも両親に打ち明けていた。
だけど「そうなんだ、すごいね」なんていいながら心の中は『本当に人の心なんて読めたら、人生がどんなにラクか。読めるなんて、ありえない』なんて、否定的だった。今も心の中では否定されるだろうなんて思っていたのに。
今、否定していた当時の両親の心の中に返事をするならば「人の心が読めてもラクじゃない。むしろ知らない方が平和でいられたことも知ってしまって、しんどい」と伝えるだろう。
「本当に信じるのか?」
「はい、信じます。遥斗くんの言葉は全て信じます」
誰にも言えない秘密をふと打ち明けて、それを肯定してくれた。
勝手に涙が溢れてくる。
「俺、もう白桃がいないと生きていけないかも。俺も、白桃が好きだ」
正直な気持ちを伝えると、何故か白桃大知もつられて泣き出した。
そしてぎゅっと俺を抱きしめてきた。
そして白桃大知は、優しくキスをしてきた。
***
相変わらず毎日が忙しくて、時間は早く過ぎていく。
ネット動画を観ていると、ドラマのスポンサーにもなってくれていた大手化粧品メーカー〝y.a-collect〟のCMが流れてきた。合成の桜を背景に、春色メイクをしたballoonflowerのふたりが出演している爽やかなCMだ。
もうそんな季節なのか――。
世間にユニット結成を公表したのは、ドラマ最終回前の時で冬だったけど、balloonflowerでの相方として白桃大知を紹介されてからは、もう少しで一年が経つ。
ユニットが決まってからは、本当にあっという間だった。
白桃大知が相方だったから大きな不満もなく、ここまで来れたんだと思う。
そして最近、ひとつ大きな変化があった。
人の心の声が聞こえなくなった――。
心が読めることを打ち明けたからだろうか。それとも、白桃大知に告白をしたからだろうか。打ち明けた日辺りから、気がつけば人の心が読めなくなっていた。
雑音が聞こえなくなって、世界が静かだなと感じ、それに気がついた。
白桃大知には伝えられなかった。
白桃大知は今、初の主演映画を撮っていて、大事な時期だったから。
心が読めなくなったのは「僕のせいだ」とか言う可能性もある。それに普段の心の声はお母さんみたいだから、急な変化が起きたけれど体調は大丈夫なのか?とか、ものすごく心配してくると思う。
映画が終わって、仕事が落ち着いてから報告する予定だ。
人の心の声が聞こえても聞こえなくてもどっちでもいいやと、もうどうでも良くなっていた。
白桃大知が隣にいてくれたお陰で気持ちも安定していたし、全てが順調だったから。
だけど白桃大知が映画を撮り終えた時に、事件は起きた。
白桃大知が週刊誌に撮られた。白桃大知が出演した映画で相手役だった、清純派女優〝木野宮 華〟が住んでいるマンションの前で。
記事が公開される3日前、「記事載せます」と事務所の方に連絡が来た。載ると知った後すぐに「迷惑かけてごめんなさい」と白桃大知は何度も謝ってきた。謝って来た時に、どうしてそこにいたのか理由を聞こうか迷ったけれど、ふたりで何をしたのか、男女関係を実際に持ったりしたのか、真実を知るのが怖くて聞けなかった。
記事が公開されると隅から隅までチェックする。
『映画共演で愛が育ち、リアルな通い愛へと発展』
『大知くんが華ちゃんにベタ惚れらしいと、ふたりと親しい友人は話していた』
親しい友人って誰だよ……。
白桃大知は仕事以外の時間は家にいつもいて、リビングで俺とずっと一緒に過ごしているし。いつ親しい友人とかいうやつにそんな恋バナ打ち明けたんだよ。
なんて考えながらも、何回も読んでいるうちに真実だと思えてくる。
SNSのファン達の反応はひどかった。
『ユニットデビューしてから撮られるの早すぎ最低。遥斗くんに迷惑かけないで』
『課金したらその金は彼女のもとへいくのか』
『これからツアーだとかイベントだとか増えそうだけど、ショックでいけないな』……。
迷惑かけるなよとか嫉妬心とか、マイナスな気持ちが交わり、俺も白桃大知に冷たくしてしまった。ひどい言葉も投げてしまった。
「今が大事な時期なのに恋愛なんか楽しんで……撮られるし、本当に最悪だな。お前のせいで関わった企業とか人、沢山に迷惑かけるかもしれないんだぞ」と。
「恋愛なんかじゃ……、いや、ごめんなさい」
何か言いたげな雰囲気も察したけど、イライラして聞く余裕もなかった。それから数日一緒にいても気まずい雰囲気で。
夜中、白桃大知は家から出ていき、それから家に帰ってこなくなった。よりによってそのタイミングでそれぞれ別の現場での仕事が続く。
頭が冷えてくると、白桃大知の心だけは、ずっと読めたままならば良かったのにと、ないものねだり状態になる。
相変わらずSNSの白桃大知への中傷は続いていた。ファン以外の、ただ面白おかしく白桃大知を傷つけたいだけの人も参加してきて。だんだんそいつらのことが許せなくなってきた。
中傷を読んでいくうちに、俺もSNSのやつらみたいに一部だけ切り取り、理由も訊かずに白桃大知を傷つけてしまったんだと反省した。
同時に『演技や歌が好きだからこれからも応援しています』とか、『これからも遥斗と一緒に前に進んでほしいです。ふたりが好きです』だとか、ひどい反応以外の言葉が目に入ってくるようになってくる。
正直、気まずいまま白桃大知と会えなくなって、気持ちが沈んでいる。そしてずっと、白桃大知のことばかり考えている。
でもあと三日したら一緒の撮影が。だけどその日まで我慢出来なくなり『白桃、どうしてる? 家に帰ってこいよ』と連絡してみた。
すぐに既読になり『これ以上迷惑はかけられないので』とだけ返事が来る。
『どこにいる?』と送ると返事は来なくなった。
白桃大知の性格上、世間に目をつけられた関係の、噂の女といるのはありえないだろう。ありえないと信じたい。マネージャーに電話してみた。
「白桃と打ち合わせしたくて、でも連絡とれないんですけど、どこにいるか分かります?」
気まずい雰囲気なのを悟られたくて嘘をついた。
「大知くんなら新曲とかセリフとか覚えるのに集中したいからホテルに泊まってるけど、聞いてないの?」
「あ、そうでした。場所聞いたけど、どこでしたっけ?」
マネージャーから教えてもらい場所を確認すると、タクシーでホテルに向かった。
着くとすぐに白桃大知に電話をかけた。
「今、ホテルの前にいるんだけど、部屋の番号教えて?」
「なんでいるんですか? 僕が今外に行きます」
「いや、いい。番号教えて?」
「1201ですけど……」
聞くとすぐに部屋に向かった。
ドアが少し開いていて、隙間からこっちを覗きながら待っていた白桃大知。俺を見た瞬間に「遥斗くん、なんで泣いてるんですか? とりあえず入ってください」と驚きの表情をみせながら俺の手を思い切り引っ張って、ドアを閉めた。
「なんで泣いてるかって? 白桃の顔を見たからだよ。どうして帰ってこないんだよ……」
「だって、遥斗くんに嫌われたから」
「ふざけるなよ。嫌いじゃねーし」
俺は白桃大知の肩をぐんと押した。
人に、こんなに感情をぶつけたのは初めてだ。
「ごめんなさい」
相手に本音を全力でぶつけるのが慣れてなくて、謝られると罪悪感が湧いてくる。いや、だまって帰ってこなくなったのが悪いんだ。会った瞬間に寂しさや怒りで感情が込み上げてきたけれど、謝られたら治まってきた。今は喧嘩をしに来たわけじゃないし。
「その、撮られた相手とはどんな関係なの?」
撮られた相手の名前は〝木野宮 華〟だと知っている。だけどなんか、その名前は呼びたくない。
「どんな関係って?」
「その、恋仲とか……」
「そういうのは一切ありません」
「ありませんって、マンション前で撮られてたじゃん」
「マンションには入りましたけど
……」
「中に入ったんだ……」
「だけど、何もやましいことはなくて」
「じゃあ何しに行ったんだよ?」
「はぁ……」
白桃大知は突然ため息をついた。
心が読めないから、このため息はとても恐ろしく感じた。
質問をしすぎて嫌われたのだろうか。
プライベートを詮索しすぎて嫌がられたのだろうか。
考えこんで下を向いていると、突然両手を握られた。はっとして白桃大知の顔を見る。
「まだ早いけれど、渡したい物があります。帰りましょう」
渡したいもの?
白桃大知は荷物をまとめ、帰る準備をはじめた。じっと見つめていると、強く手を引っ張られ、部屋の外へ。そのまま駐車場に連れられ、助手席に乗せられる。
車は走り出した。
「……白桃の心が分からなくなってから、怖い……」
きらびやかでにぎやかな街並みが助手席から見えるけれど、俺の心は暗くて静かだった。白桃大知の心の声が聞こえなくなってから、ずっと静かだ。
白桃大知は自分の話を進んでするわけではない。白桃大知の気持ちが知れて、俺のことを常に想ってくれていると分かっていたのは、心の声が聞こえていたからだ。
「……もしかして、聞こえなくなったんですか?」
白桃大知は前を見ながら、驚いた様子の表情をしている。
「そう、聞こえなくなった」
それから車内でふたりは言葉も交わさず、本当に静かになった。
白桃大知は今も、何を考えているんだろうか。もう何も分からない。
マンションに着くと、白桃大知は何も言わずにまっすぐ部屋に向かっていく。しばらく出てこない。リビングでひとり取り残され、隣に白桃大知が戻ってきたはずなのに、孤独を感じた。
しばらくすると、大きな紙袋を持って部屋から出てきた。
「遥斗くん、活動10周年おめでとうございます」
「はっ? 10周年?」
「遥斗くんが初めて撮影した日は分からないけれど、前に遥斗くんがいたグループが結成されて、遥斗くんが世間に初披露された日から10年です」
「10年か……」
〝白桃大知とballoonflowerを結成してから何日目〟かは考えていたけれど……。自分が活動を初めてからどのくらい経ったのかとかは、気にしてなかった。
「これ、どうぞ」
白い紙袋を渡され、中身を出した。
黄色のつるつるな鉢植えの上に透明なバルーンが乗っている。バルーンには〝遥斗くん、10周年おめでとう〟と白い文字で書いてあり、そのバルーンの中には薄い紫の桔梗と、かすみ草の造花が並んで入っていた。
「balloonflowerって名前を提案した時、僕の中では『永遠の愛って意味の花言葉がある桔梗』って意味だったけど、遥斗くんは風船の中に花が入ってるやつを想像してて……」
「うん、してた」
「その時にバルーンフラワーのこと可愛いって言っていたので、作ってみました」
「そんな俺の発言まで覚えてるの?」
「はい、遥斗くんの言葉も動きも、ひとつひとつ、忘れません」
紙袋の中にはまだ何か入っていた。
2頭身ぐらいの、俺と白桃大知の可愛いぬいぐるみだ。初めてふたり一緒にCMに出た時に着ていた、白い衣装を着ている。
「これは、僕たちもちょっと縫いましたけど、華さんのお姉さんがほとんど作ってくれました」
「……お姉さん?」
「はい、お姉さんもずっと遥斗くんのファンで。ついでに僕も作ってもらいました」
「そうなんだ……」
「あと、1週間後の遥斗くん10周年の当日、SNSチェックしてみてください」
「SNSチェック? 毎日チェックしてるけど」
そう言うと、白桃大知はふふっと微笑んだ。
話を詳しく訊くと、木野宮 華とふたりきりになったことは一回もなかったらしい。常にお姉さんもいて、3人で黙々と作業をしていたんだと教えてくれた。最近は特に詰まっていて忙しいスケジュールなのに、忙しい中のわずかなスキマ時間に、俺にバレないように作業をしていたんだと――。
「ありがとう。疑ってごめん」
「僕の方こそ、本当にごめんなさい……」
自分から白桃大知を抱きしめにいく。
白桃大知はそれに応えてくれる。俺の背中に手をまわし、ぎゅっと強く抱きしめてくれた。
俺のために10周年のグッズを作ってくれて、そのせいで白桃大知は世間からたたかれることになったのかと考えると、胸が痛くなる。
「白桃、俺のこと好きか?」
「はい、大好きです」
「本当か?」
「本当です」
俺は、白桃大知が誰よりも好きで、大切だ――。
ファンの人たち、世間の人たちにさえ嫌われるかもだけど、俺はある決心をした。
1週間後、10周年の日が来た。
0時になった時、白桃大知は風呂に入っていた。
リビングでSNSをチェックしてみると……。
『#水樹遥斗くん10周年おめでとう 初めて見た時からずっと遥斗くんに心を奪われています。辛いことがあった日も、ずっと遥斗くんの存在に助けられてます。これからもずっと僕の心の真ん中には水樹遥斗くんがいます。遥斗くん、おめでとうございます。そしていつもありがとうございます! 白桃大知より』
白桃大知が書いた文章がballoonflowerの公式アカウントに。ハッシュタグをクリックしてみた。
ずらずらずらずらと並ぶ、俺へのお祝いの言葉。それはSNSでトレンド入りする程に。
急いで風呂場へ行くと、脱衣所で白桃大知が上半身裸で立ちながらスマホをいじっていた。
「白桃、ありがとう。嬉しすぎる」
上半身裸の白桃大知の背中に抱きついた。
「ち、ちょっと……服を着てなくて。あの、抱きつくのは……」
「あ、ごめん」
恥ずかしくなってきて、急いで離れる。
「僕は、遥斗くんとは相方ですけど、一番のファンでもありますから」
「ありがとう。あの、こんなに沢山祝ってもらったけど、お願いがひとつあって……いい?」
「……はい、遥斗くんのお願いなら何でも訊きます」
「白桃……」
何でも訊きますって……白桃大知を眺めていると、心の奥からじんとした気持ちが込み上げてきた。
「白桃、今からSNSに俺の気持ちを呟くから。SNSで、全力で返事をしてほしい」
ひとりでリビングに戻り、スマホを手に取り、自分のアカウントを開く。
『ファンの皆様、お祝いの言葉をありがとうございます。今日まで活動を続けて来れたのはファンの皆様と、支えてくださった皆様のお陰です。 #水樹遥斗くん10周年おめでとう のハッシュタグの言葉、全てを大切に心の中にしまい、これからも皆様に喜んでいただけるように精進いたします。本当にありがとう! みんな大好きです』と、書いた。
それをアップしてから、もうひとつ別の文章を書く。
『相方の白桃へ お祝いの言葉ありがとう。俺も白桃と出会った時から、ずっと白桃大知という存在に助けられてきた。白桃大知を愛してる。これからもずっと隣にいてほしい。嫌か?』
SNSで呟くと、ファン宛の方よりも、白桃大知宛に書いた言葉の方の反応がすごかった。ファンたちが次々にいいねやコメントを書いていく。
脱衣所にいたままの白桃大知が返信してきた。
『嫌なわけがないです。もう遥斗くんに誤解されたり、遥斗くんを泣かせることは絶対にしません。だから僕の隣にずっといてください。これからもずっと一緒にいたいです。遥斗くん、僕は遥斗くんを、世界一愛してます』
嫌か? と質問することにより煽るというか、強めな返信が来るかなとは考えていたけど、想像以上の返信が来た。
『そんなに前から両思いなの…?尊い』
『やっぱりこのふたり、リアルでも付き合ってるんだよ。だからあの記事はウソ』
『なにそれ、もしかして記事のことで遥斗くんが泣いたの?ってか両想いじゃん。ずっとふたりを見守り隊』
作戦?は成功した。週刊誌に載った直後に比べると数は落ち着いてきたものの、毎日白桃大知が傷つけられることが書かれていた。男女関係はなかったのが真実だ。なら、俺らが出演していたBLドラマのイメージも利用し、ファンたちの視線を俺らに向けてしまえばいい。
「遥斗くん、返事書きました。本当に嫌だなんて、思うはずがありません。今まで一度もないし、これからも……」
白いTシャツと短パン姿に着替えた白桃大知が目の前に来た。
「心の声が聞こえなくなってから、本当にずっと不安なんだ」
「なんで不安なんか……」
「白桃がため息をついたり、いつもと少しでも違う時は特に。俺、何か嫌なこと言ったかな? 嫌われてないかな?とか。だって、白桃の話、あんまり聞かせてくれないから……」
「遥斗くんは、僕の話が聞きたいんですか?」
「うん、聞きたい」
「分かりました。僕も話すので、遥斗くんも本音を沢山教えてください。僕は、遥斗くんの全部が知りたいです」
「うん、分かった」
白桃大知が微笑んだ。
白桃大知の笑顔は、俺の心を見透かして全てを包んでくれているようで、尊い。
白桃大知が、世界一愛おしい――。
時が経つと、白桃大知への中傷は落ち着き、balloonflowerのふたりはリアルで恋人なのではないかと噂は広まっていった。
離れるファンも沢山いそうだなと予想していたけれど、仲が良いのをアピールしていったお陰か、人気がもっと出てきた。
プライベートも順調だ。
一緒に朝を迎えられる時は、一緒に眠っていた布団の中で「おはよう」を言い合う。
朝起きると目の前に白桃大知がいるんだ。
誰よりも信じられる、大切な人が。
それはきっと、当たり前ではなくて――。
「遥斗くん、出来ました!」
布団から出てソファに座っていると、朝食の準備を終えた白桃大知が俺を呼ぶ。
一緒の食卓で、白桃大知と一緒に朝ご飯を食べる。
それも奇跡だ。
もしも白桃大知が俺のファンじゃなかったら?
もしも俺らがユニットを組んでいなかったら?
そして、もう何も聞こえなくなってしまったけれど……もしも心の声を聞く特殊能力がなかったら、俺は別の人生を歩んでいたかもしれない。
他にも……何かがかけていたら、今の景色は見られなかったかも。
「今日は久しぶりに、一緒に朝ご飯食べれるので、嬉しいです」
ダイニングテーブルで向かい合って座ると、白桃大知が言った。
「俺も、嬉しい」
「遥斗くん」と、突然強い口調で呼ばれた。
「何?」
「朝布団の中で抱きしめている時に気がついてしまったのですが、痩せましたよね? 僕がいない時、きちんとご飯食べてます?」
「い、いや……」
ひとりの時はおにぎりと牛乳、そして栄養サプリとか。適当に食べて過ごしてしまう日々。
「もう……きちんと食べてください。あと、目の下のクマも気になります。きちんと睡眠もとってください!」
「う、うん。分かった」
「あとは……」
ユニットを組む前、イベントに参加してくれていた時もずっと、白桃大知の心の中はお母さんみたいに俺を心配していたっけ? 心の声が聞こえなくなっても、こうやって届くように伝えてくれる。だから聞こえなくなってから発生していた不安も、最近は消えていった。
「白桃、本当のお母さんみたいだな」
白桃大知は俺の言葉を聞いて、はっとした表情をした。
「そんなつもりじゃなくて、ごめんなさい」
「いや、謝られることじゃなくて。嬉しいんだ」
「嬉しい?」
「うん。だって、ずっとイベントに来てくれていた時も心の中がお母さんみたいだなって思っていたから……今もお母さんみたいで」
「お母さんじゃなくて、いや、お母さんでもいいですが。相方でありファンでもあり、そしてなんて言えばいいのか分からないけれど、遥斗くんは僕にとってとにかく一番の人で、遥斗くんにとって僕は一番でありたいです。あれ? 僕は今、遥斗くんに何を伝えたいんだろう」
――もうすでに、一番だし。
きちんと言葉にして、伝えようとしてくれているのが本当に嬉しい。
「言葉が上手くまとまったら教えて? 知りたいから」
「はい、分かりました」
「よし、現場に向かおうか」
「今日からしばらく同じ現場ですね」
ふたりで微笑みあった。
白桃大知と本音を言い合えて、一緒に笑い合えることが、幸せだ。
隣にいられることが、本当に幸せだ――。
外に出ると、心地よい風が頬に触れた。