それ以来、花楓は駐在所を通りかかるたびに寄るようになった。
 彼がまたうっかり昼寝をして猫又の正体を現していないか、気になったからだ。

 彼は本性が猫又であるせいか、昼間は眠そうにしていることが多かった。
 駐在所の勤務時間は基本的には八時から夕方五時まで、昼間の勤務ばかりだ。

  陽乃真が休みをもらうときには隣の市から交代勤務の人が来ていた。この人たちも顔なじみではあるのだが、陽乃真ほどの親しみを感じなかった。

 若者が少ないこの村で、陽乃真は人気者だった。
 数少ない小学生は彼によく懐き、しょっちゅう駐在所に寄っていた。
 陽乃真は老人の頼みを快く引き受け、電球を変えたり重い荷物を代わりに運んだりしており、断っても断っても野菜や果物を差し入れられていた。
 警察は物をもらっちゃいけないんだけどな、と困惑しながらも、彼はそれを受け取るはめになっていた。

 彼の気さくな性格のせいか、村の人たちはすぐに昔からの知り合いのように親しく話すようになった。
 花楓もその例にもれず口調は砕け、ハルさん、花楓さんと呼び合うようになった。

 年頃の花楓が彼に恋するのにさほど時間はかからなかった。
 連絡先も交換したが連絡するほどの内容などあるはずもなく履歴は綺麗なままで、花楓はそれが寂しかった。

 一度、いたずら心をだして猫じゃらしを持って駐在所に行ったことがある。
 プレゼント、とそれを見せると彼はちょっとムッとした。

「猫と一緒にしないで」
「そっか、いらないんだ。残念」
 言いながら、花楓はそれをぴこぴこと動かす。
 彼は目をきらっとさせてそれを視線で追い掛け、花楓が動きを止めた瞬間に両手でばっと捕まえる。

 直後、はっとして居ずまいを正す。
「猫じゃらしは禁止です」
「はい」
 恥ずかしそうに言う彼に、花楓はくすっと笑いながら返事をした。