「村の人は知ってるんですか?」
「知りません、内緒にしてください。バレたら警察官を続けられなくなります」
「どうせ言っても誰も信じないから大丈夫ですよ」
「そ、それもそうですね」
 彼はようやく安堵した笑顔を見せた。

「人間をとって食ったりしないんですよね」
「もちろんです! 何百年も昔はそういう猫又もいたそうですが、人間はまずいらしいですし、それよりおいしいものはいっぱいあります。特に半液状のおやつ、あれはすばらしい!!」
 彼は目をきらきらさせて言い、それからはっとして空咳をしてごまかす。

「人間は食べません。人間だって昔は犬を食べていたけど、全員じゃないですし、今は食べないでしょう?」
犬食(いぬしょく)……聞いたことはありますけど、食べたいとは思わないですね」
「おいしそうな猫缶があっても人前では我慢してるんですよ、だから大丈夫です!」
 どのへんが大丈夫なのかわからなくなるが、花楓は頷いた。

「猫上陽乃真です。みんなにはハルって呼ばれてます。きちんと警察官として勤務しますから、よろしくお願いします!」
 頭を下げると制帽が落ちて、彼は慌てて拾いあげてかぶりなおす。
「よろしくお願いします」
 花楓はくすっと笑って頭を下げた。



 彼から花楓の家に連絡があったのは翌日だった。
 財布の持ち主に無事に財布を返すことができた、という連絡で、律儀だな、と花楓は思った。