花楓はまじまじと彼を見た。
「猫、なんですか?」
 質問に、彼はもじもじしてから花楓をそっと見る。

「……猫又って知ってます?」
「猫が長生きするとなるっていう?」
「そうです。俺は両親が猫又で、生粋の猫又なんですけどね。それなんです」
「はあ……」
 花楓は驚き過ぎて二の句が告げなかった。

 猫又を自称するいい歳した大人。しかも警察官。
 ふざけているようには見えなかった。そもそも、目の前で猫から人間に変化(へんげ)する姿を見ている。

「猫又って警察官になれるんですか?」
 自分でもとんちんかんなことを聞いている気がするのだが、ほかに頭に浮かばなかった。

「ちゃんと試験を受けて合格して、警察学校にも通いましたよ。ずるはしてません」
「へえ、すごいですね」
 戸籍とかどうしたんだろう、と思うが、なんとなくそれを聞く気にはなれなかった。

「どうして警察官に?」
「人間の刑事ドラマを見て警察官に憧れたんです」
「猫でも刑事に憧れることあるんですね」
「猫でもってやめてください。猫のあやかし、猫又です」
 彼はちょっとムッとしたように言う。