「ありがとうございます」
「夏の青い楓もいいですが、秋は紅くなった葉が地面に落ちるでしょう? あの中に寝転ぶのもなかなかいいんですよね」
 彼はそう言ってからはっとしてまた手続きを続ける。
 書類を書きながら財布の中身を一緒に確認する。村の住民の財布だった。すぐに持ち主に連絡が行くだろう。

「……はい、では受付は完了です。ありがとうございました」
 彼はにっこり笑って花楓を見る。

「猫」
 花楓が言うと、彼はびくっとした。
「好きですか?」
「す、好きです」
 彼はうろたえながら答えた。

「猫」
 また花楓が言い、彼はびくっとした。
「——柳ってかわいいですよね」
「ああ、ついじゃれたくなりますね」
 彼は答え、はっとして口をつぐむ。

「猫」
 びく!
「に小判とか」
「もうやめてください」
 彼は顔を両手で覆った。