一か月後、花楓はスクーターでお寺へと向かっていた。
 お寺の隣の元保育園には、今は大人や子どもがあつまってわいわいと過ごしている。

 土日限定で開かれる私設図書館だった。
 村の住人たちの家で眠っている読み終わった本を持ち寄った図書館で、最初は蔵書が少なく内容も偏っていた。
 それでも今までなかった図書館の開設に村の人たちは喜んだ。
 提案したのは花楓で、住職の明慶は管理も含めて快く引き受けてくれた。

 ネットで寄付を募ると、予想以上に本が寄せられた。仕分けるのは花楓を含めたボランティアの仕事だが、あまりに多くの本が寄せられたので今は寄付の受付を中止している。
 境内では本に飽いた子供たちが走り回り、それを窓越しに見ながら花楓は図書館の中で本の整理をする。

「こんにちは。図書館は順調みたいだね」
「ハルさん」
 花楓は顔を輝かせて彼を迎えた。
 彼は警察の制服に身を包み、優しい笑みを浮かべて中に入ってきた。

「巡回なの?」
「そう。ついでに様子を見に来たんだ」
 照れ臭そうに彼はいい、イチョウのほうに目をやる。
 つられて花楓もそちらに目をやるが、ただイチョウがあるのみだ。