もふもふ猫又警察官は愛する彼女を守りたい

 だけどそれを言う気にはなれなかった。
 言えば彼女の笑顔が曇ってしまうような気がしたから。
「外にお連れしましょう」
 珀佳は立ち上がった。

「ありがとう」
 花楓はまたにっこりと笑い、珀佳の胸にはあたたかさが満ちた。
 珀佳が手をかざすとほわりと淡い光が生まれ、外の世界とつながる。
 光が大きくなって人が通れるほどの大きさになると珀佳は言った。

「ここをくぐればもとの世界に帰れます。さきほどは猫にこじあけられましたが」
「猫じゃない、猫上陽乃真だ」
 陽乃真が不満そうに名乗る。

「今度なにかしたら爪とぎに材木に……それから薪にもしてやるからな」
 イチョウは水分が多く燃えにくい。防火のために寺社に植えられることが多いのだが、陽乃真はそれを知らなかったからそう脅した。

「お前こそ、彼女が泣くようなことがあれば必ず連れ去る」
 結局、自分の意志は考慮してもらえなさそうだ、と花楓は頬をひきつらせた。

「花楓。苦しかったらいつでも私を呼んでください」
「うん、ありがとう」
 泣くときにこの木の下に来ることだけはやめよう、と花楓は決心した。

 珀佳に見送られて外に出ると、空はまだ暗く、東の空がほんのりと明るかった。
 日が出るまでに帰れば、怒られずにすむかもしれない。花楓はほっとした。あの空間はもしかしたら昼夜の概念のない世界なのかもしれない。