人間の世界のことなどろくに知らない。彼はずっとイチョウとともにあり、ここ以外に存在したことなどないのだから。その彼が人の世に混じることなど、出来るようには思えない。
「お前が守りたかったのは本当に彼女なのか? 守るなら閉じ込める必要はなかったはずだ」
珀佳を押さえつけたまま、陽乃真は言う。
「彼女は泣いていた。悲しみで張り裂けそうな痛みが伝わっていた」
「その悲しみは彼女のもので、お前のものじゃない。そのあとどうするかは彼女が決める。お前が決めるな」
「私はただ彼女を守りたかっただけだ!」
「心は誰かに見定めて守ってもらうものじゃない。結局お前は自分の心を守りたかっただけじゃないのか。彼女が傷付くのを見て傷付く自分が嫌だっただけだ」
「違う!」
珀佳は叫ぶ。
「そんなわけ、あるはずがないだ。私はただ彼女を守りたくて……」
声は言い訳するように響き、語尾が弱くなる。
花楓が陽乃真の肩を叩くと、彼はためらいながらも前足をどかした。
珀佳は体を起こすと、力が抜けたように床に座り込む。
「思ったんだけどね」
花楓はその隣に座って彼に語りかける。
「彼女はあなたが居てくれてよかったと思ってるんじゃないのかな」
珀佳は顔を上げて花楓を見る。
「家族のことも友達のことも大切で、だから弱音を吐けなくて。だけどあなただけは聞いてくれて、心の支えになってたと思う。だからあなたはきっと彼女の心を救っていたよ」
「そんな……そんなこと。そんな都合のいい解釈……」
珀佳は呆然とつぶやく。
「お前が守りたかったのは本当に彼女なのか? 守るなら閉じ込める必要はなかったはずだ」
珀佳を押さえつけたまま、陽乃真は言う。
「彼女は泣いていた。悲しみで張り裂けそうな痛みが伝わっていた」
「その悲しみは彼女のもので、お前のものじゃない。そのあとどうするかは彼女が決める。お前が決めるな」
「私はただ彼女を守りたかっただけだ!」
「心は誰かに見定めて守ってもらうものじゃない。結局お前は自分の心を守りたかっただけじゃないのか。彼女が傷付くのを見て傷付く自分が嫌だっただけだ」
「違う!」
珀佳は叫ぶ。
「そんなわけ、あるはずがないだ。私はただ彼女を守りたくて……」
声は言い訳するように響き、語尾が弱くなる。
花楓が陽乃真の肩を叩くと、彼はためらいながらも前足をどかした。
珀佳は体を起こすと、力が抜けたように床に座り込む。
「思ったんだけどね」
花楓はその隣に座って彼に語りかける。
「彼女はあなたが居てくれてよかったと思ってるんじゃないのかな」
珀佳は顔を上げて花楓を見る。
「家族のことも友達のことも大切で、だから弱音を吐けなくて。だけどあなただけは聞いてくれて、心の支えになってたと思う。だからあなたはきっと彼女の心を救っていたよ」
「そんな……そんなこと。そんな都合のいい解釈……」
珀佳は呆然とつぶやく。



