黒いものは財布だった。
 迷わず拾い、そのまま駐在所に持って行く。
 駐在さんにきちんと会うのは初めてだな、と思いながら駐在所の前に自転車を止めて引き戸の前に立つ。ガラス越しに、机にうつぶせている警察官が見えた。

 倒れてる!? 熱中症!?
 花楓は慌ててガラス戸を開ける。
 直後、エアコンの涼しい風が流れて来た。
 戸を閉めて机に拾った財布を置いて、違和に気付いた。

 警察官は、妙に毛深かった。いや、毛深いを通り越している。黒髪と思ったものはぶち模様のようで、茶色の毛ものぞいている。顔は白い短毛に覆われていてひげも白。うつぶせた顔を支える手もまたふわふわと白い毛に覆われている。

 むにゃ、と警察官が動いて制帽がずるりと落ちた。
 直後、猫のような耳がピンと立つ。

 花楓は一歩をあとじさった。
 なにこれ、猫のコスプレ? 警察官が?
 混乱しながら様子を窺っていると、耳がぴくぴくっと動いてもぞもぞと体が動いた。

「んにゃ……寝ちゃった」
 ひとりごとを言いながら、猫の警察官が、んー! と大きく伸びをする。

 どこからどう見ても、警察官の服を着た短毛種の三毛猫だった。片耳が黒、もう片耳が茶色にハチワレのようになっている。肉球と鼻は桜色で、つんつんと触りたくなるようなかわいらしさがあった。

 彼は花楓に気が付くと恥ずかしそうに手で頭の後ろをかいた。