「猫め、まだいるのか」
 珀佳は顔を険しくした。
「追い払ってきます」
「待って」
 止める花楓にかまわず、彼はふわりと手を差し伸べる。
 淡い光が空間に現れた。

 次の瞬間、光は爆発するようにカッと周囲を照らす。
 花楓は眩しさに腕で目を覆い、顔をそむけた。

「花楓さん!」
 叫ぶ声が近くに聞こえ、花楓はそっと目を開けた。
 光は収まっていて、目の前に陽乃真がいた。イチョウの幹を叩き続けたその手は傷付き、血がにじんでいる。

「え、どうして!? その手は!?」
「話はあと。こいつが元凶だな」
 彼は珀佳をにらみつける。

「猫ごときが我が結界に入るとは生意気な」
 長く生きた珀佳から見たら、陽乃真は生まれたばかりの若造だ。
「いっそここで葬ってくれようか」
「できるものならやってみろ」
 直後、陽乃真が溶けるように崩れた。

 輪郭があやふやになり、もやもやと崩れ、再構築される。
 気が付けば虎よりも大きな三毛猫がいた。その尾は三本、三つ編みにされてまるで一本に見える。