彼は眠りについた。
 寂しさをまぎらわすためにできることはそれだけだった。

 気が付いたら騒がしい声が聞こえて来た。
 目を覚まして驚いた。
 周囲はすっかり様変わりしており、人々の着物は見たこともないようなものに変わっていた。
 随分と長い時間を眠りで過ごしてしまったようだった。

 保育園というものがお寺の隣にできていて、保育園児が境内で遊んでいた。
 子どもたちはときにうるさく、ときに心を温かくした。
 イチョウである彼に登る姿もほほえましく、彼はにぎやかな命を見守った。

 心に開いた穴が、なんだか彼ら彼女らによって埋められていく、そんな気がし始めたころ、花楓が入園してきた。
 彼女はどことなくいつかの娘に似ていた。
 だが彼女と違って元気で、いつも境内を走り回っていた。

 自分に登り始めたときははらはらと見守った。
 花楓が落ちたときにはとっさに手を伸ばして抱き留めた。
 そうして、驚いた。
 ちゃんと彼女を抱き留めることができたから。

 彼はゆっくりと彼女を地上に降ろす。
 花楓は驚いた顔でイチョウの自分を見上げ、そばにいた園児も一緒に驚いて彼女とイチョウを見る。
 園児たちの間では、すぐにイチョウが彼女を助けてくれたことになった。

 わかってもらえたことが嬉しくてたまらなかった。
 彼女が落ちかけたことで木登りは禁止となり、子供たちは残念がった。彼も少し寂しさを感じた。