花楓はぼんやりと景色を見ていた。
 お寺だ、ということはわかったが、花楓が知っている景色といろいろ違っている。
 イチョウは花楓が知っているよりも幹が細く、背もそれほど高くはなかった。

 その木の下に和服の男性が立っていた。
 あの人だ、と気がついた。
 彼はお寺にお参りに来た着物の娘を見つめている。

 娘は本尊にお参りをしたあと、イチョウの木の前に来て、彼には気付かぬ様子で手を合わせて祈っている。
 その様子を見守る彼の眼差しは優しい。
 恋をしてるんだ、と花楓は気がついた。
 彼は彼女に手を伸ばすが、彼女には触れずにすり抜けてしまう。

 場面がふっと切り替わった。
 彼女がイチョウの下で待っていると、身なりの良さそうな男がやってきた。
 隣村の地主の長男だ、と情報が頭に滑り込んで来た。
 彼女は彼と抱きしめ合う。愛に溢れた彼女の眼差しに、イチョウの彼はうれしそうな切なそうな瞳で彼女を見ている。
 ふたりは仲睦まじく過ごしていた。

 だがあるときから男は来なくなった。
 お寺にお参りにきたふたりの村人が話をしているのが見えた。