「なんだ避けたのか」
 つまらなさそうな声がして、ふわりと淡い光が現れた。
 光はすぐに大きくなり、中からひとりの男性が現れる。
 緑の和服を着た長髪の男性はじろりと陽乃真を見て、嫌悪に目を細める。

「お前、このイチョウの木霊か」
「だからなんだ」
「花楓さんを中に取り込んだだろう。なんでそんなことをしたんだ」
「彼女が泣いていたからだ」
「理由にならないだろ!」
 陽乃真は声を荒げるが、男性は憎悪をこめた目で陽乃真を睨む。

「知っているぞ、彼女を傷付けたんだろう? お前は彼女を裏切ったんだろう。お前なんぞに彼女を渡せるはずがない」
「裏切ってなんかない!」
「婚約者がいる身で彼女に言い寄るなど、男の風上にも置けない」
「誤解だ!」
 陽乃真は叫ぶが、男性は返事をしなかった。

「去れ。彼女は渡さない」
 彼がそう言った直後、淡い光は薄まり、同時に彼の姿も薄まって消えた。

「返せ! 返せっての!」
 イチョウをどんどんと叩くが、もう返事はなにもない。
「くそ!」
 陽乃真はさらにイチョウの幹をなぐりつけた。
 次に現れたら入口をこじ開けてでも中に入るつもりだった。