「私、失恋したんだ」
花楓は木に向かって話し掛ける。
「警察官の人、本当は猫のあやかしの中でもすごい人だったんだって。婚約者の女性に、彼に近付くなって言われちゃった」
いつの間にか木の下には和服の男性が立っていた。
イチョウの若葉のような緑の着物に、長い黒髪を垂らした男性だ。
見たことがある、と呆然と彼を見る。保育園の頃に、ありがとう、と言ってくれた彼だ。
「つらかったね」
彼の声は優しかった。
「……大丈夫です」
「大丈夫ではないでしょう。あなたの心が上げる悲鳴は私にまで届いていたから」
安心させるような微笑に、花楓はじっと彼を見る。
「お眠り」
言われた直後、花楓は猛烈な眠気に襲われた。
ふらっと倒れかかる花楓の体を彼が支え、そのまま抱き上げる。
彼はイチョウに向かって歩き出し、花楓とともに木の中に消えた。
***
陽乃真は花楓が駐在所を出たあと、すぐに追いかけた。
駐在所の自転車ではスクーターとの距離は開くばかりだ。
陽乃真は猫の耳を出現させ、ぴんと立てた。
花楓は木に向かって話し掛ける。
「警察官の人、本当は猫のあやかしの中でもすごい人だったんだって。婚約者の女性に、彼に近付くなって言われちゃった」
いつの間にか木の下には和服の男性が立っていた。
イチョウの若葉のような緑の着物に、長い黒髪を垂らした男性だ。
見たことがある、と呆然と彼を見る。保育園の頃に、ありがとう、と言ってくれた彼だ。
「つらかったね」
彼の声は優しかった。
「……大丈夫です」
「大丈夫ではないでしょう。あなたの心が上げる悲鳴は私にまで届いていたから」
安心させるような微笑に、花楓はじっと彼を見る。
「お眠り」
言われた直後、花楓は猛烈な眠気に襲われた。
ふらっと倒れかかる花楓の体を彼が支え、そのまま抱き上げる。
彼はイチョウに向かって歩き出し、花楓とともに木の中に消えた。
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陽乃真は花楓が駐在所を出たあと、すぐに追いかけた。
駐在所の自転車ではスクーターとの距離は開くばかりだ。
陽乃真は猫の耳を出現させ、ぴんと立てた。