「あら、いいじゃない。お話ししたいわ」
「珠子さん」
 咎めるように陽乃真が言い、花楓の胸がずきっと痛んだ。

 珠子さんといえば、子猫を救出したときに聞いた名前だ。
 珍しい金色の目に、猫をしもべという珠子。
 彼女もあやかしなのだろうか。彼とはどういう仲なのだろうか。

「あなたが陽乃真様と仲良さげだったと聞いて、気になっていましたの」
 珠子は子猫の頭を撫でて、子猫は気持ちよさそうに目を細める。

「あなた見たことがないわ。このあたりにお住まいなのかしら」
「はい」
「野育ちでいらっしゃるのね」
 袖で口元を押さえて、ほほ、と彼女は上品に笑う。その目には見下す色があった。

「そのような中途半端な変化、能力もいまいちなのね」
 彼女の目が頭の上に向いているのに気付き、はっとする。
 猫耳のせいで猫のあやかしだと勘違いされたようだ。

「気にしないで帰って」
 焦ったように陽乃真が言い、花楓はそのままスクーターに歩み寄る。
 猫耳を外していいのかわからず、このままだとヘルメットをかぶれないので、しばらく行った先で被り直そうと思ってスクーターのスタンドを解除した。

「陽乃真様と仲が良いようですけど、どれくらい陽乃真様をご存じかしら」
 思わず立ち止まってしまい、振り返る。
「珠子さん!」
 いらついたような陽乃真の声が響く。