中を覗き込むと、中にはTシャツにデニムの陽乃真と着物姿の女性がいた。
 陽乃真が花楓に気がついて首をふる。
 中に入るな、ということだろうか。
 花楓が踵を返したとき、がらっとガラス戸が開く音がした。

「あなたご用事でいらっしゃったんじゃないの?」
 透き通るような声に振り返ると白黒の子猫を抱いた着物の女性がいた。
 大輪の花が咲いた赤い振袖に光沢のあるきなりの帯があでやかだ。結い上げた黒髪には大きな白い花の髪飾り。その瞳は金色で、いつか見た陽乃真の瞳を思い出した。

「明かりがついていたので、どうしたのかなと思って……」
 そう言うと、彼女はにっこりと微笑んだ。
「この子がお世話になったと聞いて、陽乃真様にお礼に来たんですの」
「あ、木の上の……飼い主が見つかって良かったです」
 花楓が言うと、彼女はちょっとムッとしたようだった。

「わたくしのしもべをペットのように言うのはやめていただけますかしら」
 しもべ、と聞いて花楓は首をかしげる。
「……すみません」
 よくわからないが、合わせておいた方がいいだろうと謝る。そういえば子猫を助けたあと、お使いがどうとか陽乃真が言っていた、と花楓は思い出す。

「花楓さん、ごめん、また後日」
「わかりました」
 陽乃真に言われて、辞去しようとしたのだが。