「デザイナーは発想力が大事だから、いろんな勉強をしないとね」
「えー? 図工とかお裁縫とかだけでいいかと思った」

「意外なものがアイディアの元になるからね」
「勉強させようとするための言い訳でしょ?」
 鋭い切込みに花楓はにっこりと笑ってごまかす。

「さ、勉強の続きしよっか」
「花楓先生が猫耳つけてくれたらね」
 う、と言葉に詰まる。
 なんだかこれをここでつけるのは恥ずかしい。
 だけど不安と期待が混ざった目で見つめられ、花楓はしぶしぶ猫耳をつけた。

「どう、似合うかな」
 笑顔を作って聞いてみる。
「うん、似合う!」
 ぱあっと顔を輝かせて彼女が言う。

 花楓はほっとして、結愛の勉強を再開した。
 彼女はこの日、ごきげんで勉強をしてくれた。



 八時過ぎに家庭教師のバイトを終えて結愛の家を出ると、空はすっかり暗くなっていた。水気の多い夏の夜空に星が鈍く輝く。
 スクーターを走らせ、もうすぐ駐在所、というところで明かりがついていることに気がついた。
 駐在所は基本的には五時までだから、こんな時間に明かりがついているのは珍しい。

 ふといたずら心が湧いて、駐在所の前でスクーターを止めてヘルメットをとり、もらった猫耳をつける。
 ハルさん、これを見たらなんて言うかな。