「にゃー、にゃにゃ」
 陽乃真が言って網を掲げると、子猫はおずおずと立ち上がる。

「にゃー」
 子猫が鳴くと、にゃ! と陽乃真が答える。
 子猫はしばらく網を見つめていたが、決心したようにぴょんと網の中に飛び込む。
 ぐっと重みがかかるその網の棒をしっかりとささえ、陽乃真はゆっくりと下に降ろした。

「良かった」
 花楓はほっと息をついた。
 子猫は陽乃真を見ると、にゃあにゃあとなにかを言うように鳴いた。

「そうだよ、俺が陽乃真だよ」
 彼が答えると、さらに子猫がにゃあにゃあと喋る。

「君は珠子さんのお使いだったのか。でもこっちに来たいって話は断ったんだよ」
 言ってから、陽乃真は花楓の視線に気がついて猫語に切り替えて喋る。
 にゃあにゃあと二者で話したあと、子猫はしょんぼりとうなだれて網を出る。
 とぼとぼと歩き、一度振り返る。

「気を付けて帰るんだよ。ここらにはカラスもいるからね」
 陽乃真に言われ、子猫はため息をつくような仕草を見せたあと、またとぼとぼと歩き出した。

「今の、なに?」
 花楓がたずねると、彼は困ったように笑った。
「あやかしの話だから、内緒」
 そう言われると、花楓にはもうそれ以上は聞けない。

 子猫が歩いて行ったほうを見ると、子猫はもう境内からいなくなっていた。