「きっと小さいころもかわいかったんだろうな」
 陽乃真は花楓の笑顔を思い出し、きゅんとする胸をおさえた。
 明るい笑顔は誰よりも輝いて見えるし、彼女が来てくれると胸はいつも大騒ぎだ。

 いつだったか居眠りしているとき、目が覚めたら頭を撫でられていて、どうしたらいいかわからなかった。
 猫の姿に戻っていたことは気付いていたが、猫でよかった、と思った。覆われた毛で顔が赤くなっていることがバレないだろうから。

 耳をつままれたときに反射的にびくっとしてしまい、そのときに起きたふりをした。
 不自然じゃなかったかな、と気になったが、彼女はまったく気にしていないようだった。

 彼女からしたら、ただ猫の頭を撫でたにすぎないのだろう。
 あやかしの自分が彼女に恋をしているなんて、気持ち悪いと思われたらどうしよう。

 そう思うと一歩も踏み出せず、今の心地よい関係を壊すのも嫌で、いい人でいられるように努力を重ねる日々だった。

 俺は彼女にとっては猫なんだ。
 あのイチョウが黙って村を見守ってきたのと同じように、これからも見守っていこう。
 彼はそう決意を新たにして、ため息をついた。