「ごめん、また寝てた」
「あんまり居眠りしてると、みんなにバレるよ?」
「うん……」
彼は目をこすりながらしゅるしゅると人の姿に戻る。
「ほかの人に見られたらコスプレって言い張って、奥にひっこんでから人間に戻るんだよ」
どきどきするのを隠して花楓は帽子を渡す。
「うん、アドバイスありがとう」
彼はなにごともなかったかのようにお礼を言う。
撫でたのがバレなくて良かった、とそのときの花楓はほっとしたものだった。
今日は思いがけず恥ずかしい過去がバレてしまった。だけど思い出を共有できたのが嬉しくもある。
「……またたび、買ってこようかな」
花楓はアクセルをぐっとにぎり、スクーターは速度を増して道路を駆けた。
***
駐在所に戻った陽乃真は、自転車で村内のパトロールに出かけた。
お寺の前にさしかかり、門の外から境内のイチョウを見る。
あのイチョウにはきっと木霊がいる。年月を経て魂が宿ったのだろう。木を触ったときに気配を感じた。
普段は姿を隠しているようだ。わざわざ暴いて知らせる必要もないだろうから、花楓には言わなかった。
幼いころの彼女を知っているのかと思うと嫉妬してしまうし、そのころの話をイチョウから聞いてみたい気もする。
「あんまり居眠りしてると、みんなにバレるよ?」
「うん……」
彼は目をこすりながらしゅるしゅると人の姿に戻る。
「ほかの人に見られたらコスプレって言い張って、奥にひっこんでから人間に戻るんだよ」
どきどきするのを隠して花楓は帽子を渡す。
「うん、アドバイスありがとう」
彼はなにごともなかったかのようにお礼を言う。
撫でたのがバレなくて良かった、とそのときの花楓はほっとしたものだった。
今日は思いがけず恥ずかしい過去がバレてしまった。だけど思い出を共有できたのが嬉しくもある。
「……またたび、買ってこようかな」
花楓はアクセルをぐっとにぎり、スクーターは速度を増して道路を駆けた。
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駐在所に戻った陽乃真は、自転車で村内のパトロールに出かけた。
お寺の前にさしかかり、門の外から境内のイチョウを見る。
あのイチョウにはきっと木霊がいる。年月を経て魂が宿ったのだろう。木を触ったときに気配を感じた。
普段は姿を隠しているようだ。わざわざ暴いて知らせる必要もないだろうから、花楓には言わなかった。
幼いころの彼女を知っているのかと思うと嫉妬してしまうし、そのころの話をイチョウから聞いてみたい気もする。