「私はこの木が助けてくれたんだと思ってるの。ほら、長生きした木には魂が宿るみたいな話ってあるじゃない」
「樹齢が五百年か……」
 陽乃真はイチョウの木の下にある説明書きに目を止めて考え込む様子を見せた。

「だけどそのあとは木登り禁止になっちゃった」
「そうなるだろうね」
 陽乃真は苦笑し、幹に手を当てる。コルク質が発達していて弾力があり、温かみを感じた。

「この木には悲恋の伝説があるせいで幽霊が出ると言う噂もありましてね」
 明慶が言い、陽乃真は目を彼に向けた。

「聞いたことあります。隣村の男に振られた娘がイチョウの下で息絶えていたと。長い髪の着物姿の幽霊が出るとか」
「そのせいでよそから若者が肝試しに来たことがありまして。あれも花楓ちゃんが保育園のころだったねえ。たまたま門の鍵を閉め忘れていた日に若者が境内に入ってしまって」
「住居不法侵入ですね」
 陽乃真は警察官らしく言う。

「その人たちのひとりがね、記念にって幹にナイフで傷をつけたの。名前を彫ろうとしたみたいなんだけど、そしたらなんの前触れもなく大きな枝が落ちて来てケガをしたんだって」
「それは怖いな」
 陽乃真は木と花楓を交互に見る。木の幹には真一文字に傷ができていた。

「危ないから切ってしまおうかっていう話も出たんですけど、子どもたちが大反対しましてね。イチョウに馴染みのあるご老人からの反対も多くて、伐採はしないことになりました」
 明慶の言葉に、陽乃真は花楓を見た。