「聞きたいです、教えてください!」
 陽乃真が興味津々で言い、明慶は笑顔で頷き、花楓はあきらめた。

「以前は寺の隣に保育園がありましてね。彼女も通っていたのですよ」
「俺が来る前に閉園したんですよね。小さい花楓さんもきっとかわいかったでしょうねえ」
「みんなかわいい、いい子ですよ」
 今でも小さい子どものように思っていそうな明慶に、花楓はいたたまれなくなる。

「花楓さんは子どもの頃から元気でした。ある日、この木に登って降りられなくなりましてね」
「どうなったんですか?」

「私がはしごを取りに言っている間に落ちてしまいました」
「落ちた!?」
 陽乃真は驚いて花楓を見る。
 花楓は困ったように微笑して首を傾けた。

「迷惑かけちゃう、と思って焦ってひとりで降りようとしたら、足を滑らせちゃって。でもね、不思議なの」
「なにが?」
「落ちたときにね、見えない誰かに抱き留めてもらえたの。そのままふわっと降ろしてもらえて、だからケガしなかったのよ」
「住職はそれをご覧になったので?」
「いいえ、私がはしごを持って戻ってきたときにはもう着地していました。花楓さんが空中に浮いてから降りたということで子どもたちは大騒ぎでしたよ」
「そんなことが」
 陽乃真はまじまじとイチョウを見る。