網を差し出したらさらに木の上に登ってしまった。
「俺が登ると枝が折れそうだな……お寺からはしごを借りてくるか」
「でも近付くとまた逃げるんじゃない?」
「そうなんだよなあ」
 彼は周囲をきょろきょろと見る。

「猫語で話しかけるから、周囲を見張っててくれない?」
「そんなことできるんだ?」
「俺、猫又だし」
 彼は苦笑する。

「わかった、見張っておくからお願いね」
 ふたりで周囲を見回し、誰もいないのを確認して頷き合う。
 陽乃真はそうして子猫に話しかけ、無事に救出した。
 子猫は陽乃真を見ると、にゃあにゃあとなにかを言うように鳴いた。

「そうだよ、俺が陽乃真だよ」
 彼が答えると、さらに子猫がにゃあにゃあと喋る。
「君は珠子さんのお使いだったのか。でもこっちに来たいって話は断ったんだよ」
 言ってから、陽乃真は花楓の視線に気がついて猫語に切り替えて喋る。

 にゃあにゃあと二者で話したあと、子猫はしょんぼりとうなだれて網を出る。
 とぼとぼと歩き、一度振り返る。

「気を付けて帰るんだよ。ここらにはカラスもいるからね」
 陽乃真に言われ、子猫はため息をつくような仕草を見せたあと、またとぼとぼと歩き出した。