「花楓姉ちゃんも来て!」
「うん、いいよ」
 花楓は快諾した。不安そうだった瞬は、それだけで少しほっとしたようだった。

「いいの?」
 陽乃真が驚いたように聞く。
「暇つぶしに買い物に行こうとしてただけだから、大丈夫」
 花楓の答えに、陽乃真は頷いた。
 瞬の案内で連れていかれたのはお寺の境内だった。

「あの木の枝のとこ」
 彼が指さすイチョウの樹上は子猫がいて、枝を行ったり来たりしていた。

「俺のせいなんだ、さわろうとしたら逃げてこの木に登って、降りられなくなったみたいで」
 彼はしょんぼりと告白する。
「大丈夫、ちゃんと助けるから」
 陽乃真は安心させるように微笑して彼の肩を叩いた。

「あ、瞬くん、今日は塾があるんじゃない?」
 思い出して花楓は言った。お隣だから、こういう情報は自然と入って来る。

「そうだった! だけど」
 彼は心配そうに見上げる。
「ちゃんと助けるよ。遅れるとお母さんに怒られるだろ? あとで連絡するから」
「ハルさん、頼んだよ」
 瞬はばたばたと境内を走り、自転車に乗って去っていった。

「よおし、猫ちゃん、こっちへおいで」
 陽乃真は優しく呼びかけるが、それだけで猫が動くわけがない。