真夏のお寺の境内は照りつける日差しで灼けるように暑い。ミーンミーンと鳴く蝉がうるさいほどに夏を強調し、湿度を帯びた熱気は地上のすべてを蒸している。

 玖世花楓(くぜかえで)が緑の葉を茂らせたイチョウの樹上を見上げると、後ろで一つに束ねられた髪が一緒に揺れた。花の描かれたTシャツには汗がしみ、デニムのウェストも汗でびっしょりと濡れている。

 樹上には白黒の子猫が怯えながらすくみ、下には警察官の猫上陽之真(ねこがみはるのしん)が網を持って立っていた。
 彼は『子猫が木の上に登って降りられなくなっている』という通報を受けて自転車で駆け付けたのだが、助けようとした子猫は怯えてさらに登ってしまっていた。

「猫語で話しかけるから、花楓さんは周囲を見張っててくれない?」
 陽乃真の言葉に、花楓は軽く眉を上げた。

「ハルさん、そんなことできるんだ?」
「俺、猫又だし」
 彼は苦笑する。

「わかった、見張っておくからお願いね」
 ふたりで周囲を見回し、誰もいないのを確認して頷き合う。
 陽乃真は猫に向かって話しかけた。

「にゃにゃにゃ」
 その声は猫そのもの。
 樹上の子猫はぴくっと耳を動かした。