大島唯人(おおしまゆいと)さん(仮名)は、塾講師バイトで知り合った一学年上の先輩です。
 大島さんの記憶は、他の二人とは違いかなり最近のものです。

 大島さんは良い人ですが、多少お調子者です。某動画サイトの投稿用アカウントを持っており、一か月に二本くらいのペースで動画を出していたのですが、中には大学関係者や塾の生徒に見られたらまずいのではないかと感じる動画もあります。
 大島さんが語る「偽りの記憶」は、その動画撮影中のものです。

 去年、ネットでいわゆる「祠破壊ミーム」が流行したのは記憶に新しいかと思います。
 祠を壊した主人公に対し、祖父か誰かが「お前、あの祠壊したんか」と嘆く。祠の破壊は死を意味し、主人公にとって死亡フラグとなる。ホラー系の創作物によくあるテンプレ的展開で、2024年ネットミームとして見かける機会が増えました。

 実はこのミームは2024年以前からささやかにネット上に存在していたようで、大島さんは流行前から目をつけていました。そして、「祠破壊」にまつわる面白おかしい動画を撮影しようと考えたそうです。
 ただ、本当に祠を破壊するわけにはいかないので、祠を破壊するのではなく、逆に新しい祠を作成してそれらしい場所に置こうと思いました。

 「お前、あの祠壊したんか」ならぬ、「お前、あの祠作ったんか」。事前に聞いていたら「絶対にやらないほうがいい」と止めていましたが、大島さんは誰にも言わずに実行したそうです。

 大島さんは、まずネットで祠の作り方を調べました。やる気さえあればホームセンターに売っている木材でそれらしく作れそうでしたが、面倒に感じた大島さんは、段ボールやトイレットペーパーの芯を駆使し、それっぽいものを作ることにしました。

 完成すると不思議と達成感を覚え、大島さんは車を走らせ、山のほうにひっそりと立つ廃ラブホテルに向かいました。そこは心霊スポットとして知られる場所で、「心霊スポットに祠」というのが正しいのかはともかく、絵的に面白そうと考えたそうです。

 大島さんは幽霊は信じていませんが、奥のほうまで入るのは流石に怖いと感じ、ホテルの入り口付近に祠を設置しました。この間も動画を撮影していましたが、怖くてその日は見返せず、動画編集もできなかったそうです。

 祠を設置し数日ほどたった後、大島さんは意を決して「お前、あの祠作ったんか」というタイトルで動画を投稿しました。
 祠を作り、設置するまでの様子を面白ろおかしく記録したもので、実際に見てみましたが、不覚にも笑いそうになる場面が何か所かありました。
 動画はそれなりに伸び、大島さんは苦労して撮影した甲斐があると喜びました。コメントもおおむね「発想がアホすぎて好き」、「無駄にクオリティ高い祠で推せる」といった好意的なものでした。
 しかし、コメント欄に一つ、変なものが混じっていたと言います。

「ここには、生まれたての神様がいますね」

 漠然とした不安を感じた大島さんは、様子を見に行くことにしました。プロ根性で、カメラはしっかり携えていたそうです。
 
 廃ラブホテルに降り立ち、入り口付近に足を運ぶと、ちゃんと例の祠がありました。しかし、そこには祠だけでなく、白い布に包まれた何かも置いてありました。嫌な予感に、大島さんの心臓はひゅっとなりました。
 それでも好奇心が勝り、カメラをまわしながら大島さんは布を開きました。そして、吐き気を覚えました。
 
 布に包まれていたのは、異様な姿をしたカラスの死骸でした。

 全身真っ黒なのに、目だけが薄いピンク色です。よく見ると、瞳の薄桃色は、お米でした。
 カラスの目玉がくりぬかれ、そこに赤みを帯びたお米がぎっしり詰められていたんだそうです。

 大島さんは、すぐに動画を回すのをやめました。そして、震えながらその場を立ち去りました。
 大島さんが後でカメラの映像を見返そうとしたところ、なぜか撮影した動画は存在していなかったそうです。

 動画が残ってないってことは、きっと、夢か、それこそ『偽りの記憶』だったんだよ。

 そう言った大島さんの笑みは、少し引きつっていたように思います。

 大島さんの最後の動画が投稿されてから、もう二年経ちます。
 大島さんの最新動画は、ただ三秒ほど真っ白な画面がうつされて終わります。
 サムネイルは、白背景に意味不明な文字が書かれた不可解なものです。


























 何と読むのでしょうか。