――TさんはKマンションの近くに住んでいるんですよね。
T:身バレするから、あんまり詳しく書かないでね。
――もちろんです。まず、あのマンションでなにか異変はありましたか。
T:毎日のように人が飛び降りてるのはどう考えても異常でしょうね。そんなことがあっても次々入居してくるし、あそこに残る人間も神経が図太いなって思うけど。
――他に妙な噂などありませんでしか?
T:そうねえ……ときどき叫び声が聞こえてくる。
――叫び声?
T:多分男のものだと思う。声が低かったから。まあ、あんなマンションに居続けたら気も狂うでしょうね。
――他には何かありますか?
T:私より、今そこに暮らしてる人間に聞いてみたら? 私は絶対に近寄りたくないけどね。子どもにも「絶対にあのマンションの近くは通るな」って教えてるのよ。飛び降りの巻き添えになったら可哀想でしょ?
――たしかに仰るとおりですね。お話聞かせていただき、ありがとうございました。
*
その後、我々はKマンションに足を運んだ。
陰気臭い雰囲気を放っているように見えるのは、我々の先入観によるものだろうか。
玄関先に綺麗に切り揃えられている植え込みすらも、人の血を吸っているのでは、とスタッフ一同、緊張感が漂う。
ひとまず、一階のエレベーターから九階のインタビュー相手に会いに行こうと乗り込んだ。
――が、扉の閉ボタンを押して扉が閉まった瞬間、また扉が開いてビクッと身体を震わせる我々。
「なんか変なボタン押したか?」
「あ、行き先ボタン、上と下間違えたのかも」
驚かすなよ……と胸を撫で下ろし、今度こそ九階へ。
我々はKマンションの九階に住む、Sさんに話を伺った。
*
――本日はインタビューへのご協力、誠にありがとうございます。よろしくお願いいたします。
S:はい……。
――大丈夫ですか? 顔色が悪いようですが。
S:だい……大丈夫です。
――それでは、お話をお伺いしますね。Sさんはこのマンションで不思議な体験をしたと伺ったのですが。
S:どれ……のことですか?
――あ、すみません。エレベーターの件です。
S:ああ……ゴミ出しに行ったときのことですかね。エレベーターに乗って一階に行こうとしたら、ドアが閉まった瞬間、また開いたんです。アレはびっくりしました。
――え、Sさんも……? 我々も先ほど……。
S:ああ、でも、多分上と下に行くボタン、間違えたんじゃないかな。そのときのこと、よく覚えてないけど。
――そうですか。では、不思議な体験はそれだけじゃない?
S:はい。一階のゴミ捨て場に行くまでに、何度もドアが開いたんです。八階から、二階まで、全部。
――エレベーター内部のボタンは?
S:私が押した一階だけが点灯してて……だから、誰かが外部から一階ずつ押したとしか思えないんです。でも、ドアが開いても全部の階に誰もいなくて、すごく不気味でした。
――イタズラの可能性は?
S:そりゃあるかもしれませんけど、階段で降りながら一階ずつボタンを押していくって無理があるし、そもそも何のために? って思ったら、すごく気持ち悪くなって……そろそろこのマンションから引っ越そうと思っています。
――ありがとうございました。
*
その後、我々が管理人に依頼して当時のエレベーターの防犯カメラを確認したところ、Sさんの乗っていたエレベーターは確かに一階ずつ止まっていた。しかし、ドアが開くたびに一人ずつ、『灰色の子供』がエレベーターに乗り込んでいたのである。
T:身バレするから、あんまり詳しく書かないでね。
――もちろんです。まず、あのマンションでなにか異変はありましたか。
T:毎日のように人が飛び降りてるのはどう考えても異常でしょうね。そんなことがあっても次々入居してくるし、あそこに残る人間も神経が図太いなって思うけど。
――他に妙な噂などありませんでしか?
T:そうねえ……ときどき叫び声が聞こえてくる。
――叫び声?
T:多分男のものだと思う。声が低かったから。まあ、あんなマンションに居続けたら気も狂うでしょうね。
――他には何かありますか?
T:私より、今そこに暮らしてる人間に聞いてみたら? 私は絶対に近寄りたくないけどね。子どもにも「絶対にあのマンションの近くは通るな」って教えてるのよ。飛び降りの巻き添えになったら可哀想でしょ?
――たしかに仰るとおりですね。お話聞かせていただき、ありがとうございました。
*
その後、我々はKマンションに足を運んだ。
陰気臭い雰囲気を放っているように見えるのは、我々の先入観によるものだろうか。
玄関先に綺麗に切り揃えられている植え込みすらも、人の血を吸っているのでは、とスタッフ一同、緊張感が漂う。
ひとまず、一階のエレベーターから九階のインタビュー相手に会いに行こうと乗り込んだ。
――が、扉の閉ボタンを押して扉が閉まった瞬間、また扉が開いてビクッと身体を震わせる我々。
「なんか変なボタン押したか?」
「あ、行き先ボタン、上と下間違えたのかも」
驚かすなよ……と胸を撫で下ろし、今度こそ九階へ。
我々はKマンションの九階に住む、Sさんに話を伺った。
*
――本日はインタビューへのご協力、誠にありがとうございます。よろしくお願いいたします。
S:はい……。
――大丈夫ですか? 顔色が悪いようですが。
S:だい……大丈夫です。
――それでは、お話をお伺いしますね。Sさんはこのマンションで不思議な体験をしたと伺ったのですが。
S:どれ……のことですか?
――あ、すみません。エレベーターの件です。
S:ああ……ゴミ出しに行ったときのことですかね。エレベーターに乗って一階に行こうとしたら、ドアが閉まった瞬間、また開いたんです。アレはびっくりしました。
――え、Sさんも……? 我々も先ほど……。
S:ああ、でも、多分上と下に行くボタン、間違えたんじゃないかな。そのときのこと、よく覚えてないけど。
――そうですか。では、不思議な体験はそれだけじゃない?
S:はい。一階のゴミ捨て場に行くまでに、何度もドアが開いたんです。八階から、二階まで、全部。
――エレベーター内部のボタンは?
S:私が押した一階だけが点灯してて……だから、誰かが外部から一階ずつ押したとしか思えないんです。でも、ドアが開いても全部の階に誰もいなくて、すごく不気味でした。
――イタズラの可能性は?
S:そりゃあるかもしれませんけど、階段で降りながら一階ずつボタンを押していくって無理があるし、そもそも何のために? って思ったら、すごく気持ち悪くなって……そろそろこのマンションから引っ越そうと思っています。
――ありがとうございました。
*
その後、我々が管理人に依頼して当時のエレベーターの防犯カメラを確認したところ、Sさんの乗っていたエレベーターは確かに一階ずつ止まっていた。しかし、ドアが開くたびに一人ずつ、『灰色の子供』がエレベーターに乗り込んでいたのである。