「――と、いうわけなの」

 後宮に帰ってから、正妃の間で夜更け、マリアローズは《魔法の鏡》に、一連の顛末を説明した。すると《魔法の鏡》が笑った。

『窮鳥懐に入れば猟師も殺さず、かぁ。マリアローズは、この意味を知っている?』
「え? 全然知らないわ。どういう意味なのか、分からなかったの」
『逃げ場を失くして追い詰められた鳥が懐に飛び込んできたら、猟師であっても殺すことはできないという諺なんだよ』
「どういう事?」

 マリアローズが首を傾げると、《魔法の鏡》からは楽しげな空気が流れてきた。

『ハロルド陛下は、優しい猟師だったんでしょう?』
「ええ。そう話していたわ」
『きっと誰かを救ったんだよ』
「クラウドの事を助けたの!」
『そうだね。ただ、本当にそれだけかな?』
「……私の事も助けてくれたわ。それとも別の人のことかしら? 誰?」
『さぁね。ただ、やっぱり――世界で一番綺麗なのは、ハロルド陛下でございます』

 確かに、あの時の険しくも真剣な瞳は綺麗でもあったなと考えながら、マリアローズは微笑し、この日は休むことに決めた。寝台に入り瞼を伏せると、ここ数日の楽しかった出来事と、最後にハロルド陛下の顔が思い浮かんできて、次の瞬間には眠りに落ちていた。

 こうして、一つの事件が幕を下ろしたのである。