妖怪村の異類婚姻譚

 午後六時になると、おもむろに片付けと掃除が始まり、その三十分後には建物を追い出されてしまった。小姫は乾燥室に入れてもらい、こっそり触ってみたり、小声で話しかけたりしてみたのだが、全く成果は上がらなかった。

「見ても、触っても、話しかけてもわからないって……。あー、もう! どうすればいいんだろ。やっぱり、青峰さんだけでも来てもらった方がいいのかなあ」

 うなだれながら弱音を吐く。すると、隣に戻ってきた乙彦が、扇子を畳んでじろりと睨んだ。

「あんな砂利、必要ないのです。あんなのを呼ぶくらいなら、私が今すぐあの小屋を水没させてやるのです」

 いきなり物騒なことを言い出した。

「ちょ、ちょっと……! 冗談でもやめてよね、そんなこと言うの!」

 乙彦の口を手でふさぎ、小姫は慌てて周囲を見回す。花火職人たちは近くにおらず、ほっと胸をなでおろした。

 青峰は、調停者の見習いをしている大学生だ。今までほとんど妖怪と接点のなかった小姫よりずっと知識はあるし、弥恵からいろいろ教わっている。彼なら、作業員たちとの交渉も、小姫より円滑に進められるだろう。
 しかし、そんな彼と乙彦は犬猿の仲だった。青峰は妖怪である乙彦への警戒を解いておらず、そのため彼が小姫に近づくのを阻止しようとする。乙彦にとってはそれが邪魔で仕方ない、というわけだ。

「冗談なんかではないのです。たかが祭りの、たかが花火なのです。花火が無くなるくらい、大した問題ではないのです」
「大した問題よ!」

 小姫はこぶしを握って力説した。

「うちみたいに何もない小さな村じゃ、年に一度のビッグイベントなんだから! それが無くなったら、みんなきっとがっかりする! 花火大会を無くすなんて、絶対ダメ!」
「…………」

 乙彦は明らかに不満そうだった。しかし、口元を扇子で隠し、ふう、と息を吐く。

「――だったら、ヒメがなんとかするのです」
「…………わ、わかってるわよう……」

 小姫は、消え入りそうな声で返事をした。なんだか自分で自分を追い込んでしまった気分である。

 もちろんやる気はある。が、見つける術が思いつかない。明日から、一体どうしたらいいのだろう。

 小姫は澄んだ星空を見上げて、重く湿ったため息をついた。