雄二はカプセルロケット宇宙船の完成を急いでいた。しかし時間は待ってくれない。カプセルロケット宇宙船を一機作り上げたところで、北豚汁の銀誤恩が、シュリンプ率いるアタリヤ合衆国向けに、一発核兵器を飛ばした。それは北太平洋上で迎撃された。銀誤恩は、シュリンプによる二国間不平等条約を破棄するためにも、アタリヤ合衆国に北豚汁の核兵器をぶち込む必要があったと同時にもうどうにでもなれという感情で核のボタンを押してしまったのだ。怒ったシュリンプは、すぐさま北豚汁への核ボタンを押してしまった。慌てた北豚汁の同盟国で、領土が隣り合わせの長国の中新平が、アタリヤ合衆国への核のボタンを押した。

 どさくさに紛れて、アラシヤ連邦のユーチンは、ツライナ連邦への核のボタンを押した。ツライナ連邦と同盟関係にある、J国はアラシヤ連邦に向けて、核のボタンを与田総理がついに押した。こうして惑星Nは、世界核戦争に突入する。

 雄二と美奈は、セイラを説得して、彼女だけでも脱出できるようにと雄二は話し始めた。
「セイラ。いいかい? よく聞いてくれ。セイラ、父さんは急いでカプセルロケット宇宙船を開発してきた。だが大気圏を脱出するためには、一人しか乗れないカプセルロケット宇宙船しか開発できなかった。それも一機だけだ。セイラ、お前一人だけでも、このカプセル宇宙船で脱出してくれ。そして百億光年先の地球という星に、この惑星Nが核戦争で滅ぶことを地球人に伝えてくれ。そして同じような過ちを地球で起こさないように、伝えてきてくれ。それが、セイラができることだよ」
セイラはきょとんとしていた。十五歳になっていたが、まだ幼く、あどけなさがどこか残る少女に成長していた。
「お父さん、そんなの嫌よ! 家族みんなで行くって言っていたじゃない? どうして私一人だけで行かなければならないの? 私絶対嫌だからね! お父さんもお母さんも行かないなら、私も行かない! 惑星Nに残って一緒に死ぬわ!」
セイラは、激しく雄二に抗議した。
「セイラ、お父さんだってお母さんだって、一緒が良かったわよ。だけど一人しか脱出できないなら、一番若いあなたが行くべき! セイラ! お父さんもお母さんもそれが一番いい選択だって思っているの」
美奈は笑顔で包み込むようにセイラに言った。
「お母さん! お母さんまで、どうしてそんなこと言うの?」
雄二も美奈も、不満げな顔をする我が子を抱きしめて、こう言うのが精一杯だった。
「私たちの分まで生きて! 地球の人たちにこの惑星Nで起きたことを伝えてね! セイラなら、必ずそれができる!」
雄二も美奈も涙を隠せなくなってきた。それを見たセイラも、涙が出てくるのだった。セイラは不服ながら、雄二と美奈の言う通りにすることにした。

 「よし。そしたらこれからこのカプセル型宇宙船に乗ってもらうよ」
雄二は意を決し、セイラに言った。
「待って、お父さん! 宇宙船って、一体どこにあるの?」
セイラは不思議そうな顔を雄二に向けた。
「ここだよ!」
雄二は右手の掌を開いた。そこには、到底人一人すら乗れない、薬のカプセルと同じ大きさのものがあるだけだった。
「お父さん、これじゃあ私一人だって乗れないわ! どうなっているの?」
雄二は自慢げにそのカプセルのスイッチを入れた。するとカプセルは大きくなり、セイラが一人で生活できる空間を持った宇宙船に変わった。
「すごーい。そういうことだったの、お父さん?」
雄二はセイラを抱き寄せた。
「この中に入れば、自動的にコールドスリープできる。今から約百億光年だ」
「そんなに寝られないよ、お父さん!」
「大丈夫だ。中は丁度眠たくなるように設定されている。熊の冬眠と似たような状態になるから」
「でも私、やっぱり怖い! 一人だなんて!」
セイラは目に涙を浮かべた。
「大丈夫だから、セイラ! お父さんを信じて。お父さんもお爺ちゃん、お祖母ちゃんとお別れしたのは、セイラより若干年齢が上の時だったのよ」
美奈は、不安そうなセイラに優しく言った。
「そうだよ。お父さんは一瞬で二人の親を失った。だがセイラ、決してお父さんお母さんを失ったと思わないでくれ。このテープに、お父さんとお母さんの声と、ビデオメッセージを入れておくから、地球に着く前に見て欲しい」
「分かったわ。お父さん、お母さん!」
「セイラには、地球の人たちを同じようにさせない使命がある。そして向こうに行ったら」
「向こうに行ったら?」
「セイラ、急いで乗りなさい」
「え?」
「もうすぐ、アラシヤ連邦と北豚汁の核ミサイルがここに落ちる。さあ、行くのだ」
「お父さん、お母さん!」
「またな、セイラ! さよならは言わないぞ」
だが、雄二もどこか寂しそうだった。
「またね、セイラ!」
美奈も同じく寂しそうだった。

 セイラは、宇宙船に乗り込んだ。
「またね!」
セイラは、窓越しに雄二と美奈に大きく手を振った。雄二と美奈も大きく手を振り返した。
「よしカウントする。十、九、八、七、六、五、四、三、二、一」
次の瞬間、うねりを挙げて宇宙船は空高く舞い上がり、宇宙の彼方へと消えていった。

 この三分後、惑星Nは世界核戦争により爆発し、粉々に宇宙の核ごみと化した。

惑星Nをぎりぎり脱出したセイラは、宇宙船の窓越しに、その爆発光景を見た。
「お父さん、お母さん」
セイラは力なく呟いた。しかし悲しい寂しい感情より、今は眠気が勝った。百億光年の間、セイラはコールドスリープにより、長い眠りについた。宇宙船は、速度を保ちながら、地球へと向かい出した。