ピカ、ゴオーン ドーン!
それは一九九四年五月の連休が明けて、蛍のシーズンが近づいてきたある夜のことだった。
十五歳の中学生、大嶋豊久は家の三階の窓から、夜空を見上げていた。すると流れ星のようなものが、夜空から、横浜市旭区の自宅裏山に落ちた。その大きな音に、彼はびっくりした。家族を呼ぶも、誰もその音には気づいてはいない。彼は仕方なしに、一人で、夜の裏山へと向かった。家族には蛍を見てくると言い残して、家を出た。
現場付近に行くと、何やらロケットらしき物体があった。しばらく遠くから豊久は、それを観察していると、そのロケットから自分と年齢が同じくらいの女の子が降りてきた。
豊久は、怖くなり、つい声をあげてしまった。それに気づいた女の子は、豊久の方へと近づいてきた。豊久は、動けなかった。
それを見ていた女の子は、ケラケラと笑い出した。彼女は豊久に話しかけるも、言葉が通じなかったため、宇宙言語翻訳機を使い、豊久に日本語で話しかけた。
「何でそんなに驚いているの? 私は化け物じゃないわ」
「ひぇー、しゃべった!」
「そりゃしゃべるわよ!」
「だって、君宇宙人でしょ? 何で日本語が話せるの?」
「この宇宙言語翻訳機のおかげよ」
女の子は得意げに言った。
「はあ、宇宙人がいる!」
なおも豊久は、驚き続けて痙攣(けいれん)しそうになっていた。
「あなたは誰?」
女の子は尋ねた。
「それ、こっちのセリフだから! 君こそ誰?」
「私、高岡セイラ。ここから百億光年先の惑星Nから、あなたたち地球人に伝えなければならないことがあって来たの」
「セイラか。僕は大嶋豊久。中学三年生だよ」
「中学三年生? ということは、十五歳?」
「そうだけど」
「私も十五歳!」
「え、でも百億光年かけて、地球へ来たのでしょ? そしたら百億十五歳じゃないの?」
「うるさい! コールドスリープ、まあいわゆる冷凍睡眠を使って、カプセルの中で、老いないようになっていたの」
「ま、どっちにしても百億十五歳か」
「コラ!」
セイラと豊久は爆笑した。
「コールドスリープ、すげえ! ねえ、さっき言っていた、地球人に伝えなければならないメッセージって何?」
その瞬間、セイラは顔をこわばらせた。
「今から三十二年後に起こりえることを伝えに来たの」
「三十二年後? 僕は、そのころ四十六歳になっているよ」
「そしてあなたは、この国の総理大臣になっている」
「え? 僕が! そんな、まさか!」
「えー、そうなのよ。だからあなたにしか、このロケットが着陸した時の音は聞こえなかったの」
「なるほどね」
豊久は感心しきっていた。
「ねえ、じゃあこの先未来に何が起こるかも知っているの」
「来年一九九五年一月に、兵庫県を中心にした大震災が起こる。今から七年後、アメリカで同時多発テロが起こる。それによりアメリカは戦争に突入する」
「へー。でも本当にそんなこと起こるの?」
「あなたたちには、時間が必要ね」
「ね、それで今から三十二年後の二〇二六年頃に何が起こるの?」
「核戦争よ!」
「え? 噓でしょ!」
「だからあなたには、日本の総理大臣になった暁(あかつき)には、その核戦争を止めて欲しいの!」
「でも、どうやって?」
「これから、百億光年先の私の育った星、惑星Nがたどった悲惨な運命を話すわ」
セイラは悲しそうな目で話し始めた。
「私の父高岡雄二から聞いた話よ」
「セイラ、今から言うことを百億光年先の未来の地球という惑星に行って、核戦争で滅んだわが惑星Nのことを伝えてくれ。そして地球で同じことが起きないように警告してきてくれ」
「この惑星Nは、水の惑星だった。高度な文明も持ち合わせていたがゆえに、滅んだ。私はいわゆる戦後生まれの人間だった。この国J国は、唯一の被爆国家だった。だから私の父、高岡俊二はいつも悩んでいた。隣国や世界が、危うい力による平和を掲げて、どんどん核兵器を製造する世の中になった。初めは大国だけのことであったが、次第にある戦争をきっかけに小国まで核武装する羽目になってしまった。そんな中わがJ国は、アタリヤ合衆国に守られてきた。
ある時、隣国の北豚汁 豚汁民主主義人民共和国が、秘密裏に核兵器を開発したと発表した。この国は、貧しいにもかかわらず、夏でも豚汁を強制して食べさせられる国だった。その北豚汁が、核兵器を開発したことにより、核の国際バランスが崩れようとしていた。わが父は、J国総理大臣として、また唯一の被爆者総理だった。そんなものだから、簡単にJ国を核武装させられない。なぜなら親父自身が被爆者で、その苦しみを一番よく知っていたからだ。
しかし世論は、親父の政治姿勢では、J国は守れないと、野党第一党の民衆党から追及された。しかしいつも親父を批判するのは、戦後生まれで核兵器の恐ろしさを知らない世代の奴らだった。質(たち)が悪い。親父は考え方が古いと、民衆党の幹部から指摘されていた。しかし親父は頑として、核武装だけはしないという姿勢を崩さなかった。そんな親父は、いつも家でもイライラしていた。その親父をなだめようと、母高岡礼子は一生懸命だった。だが二人とも日に日にやせ細っていった。そんなこんなで私は、十七歳になっていた。そのころだった。親父は、私に勝手に許嫁を紹介してきた。それが、セイラ、お前のお母さんの高岡美奈だったのだ。だが私には他に好きな人がいた。父の言ったことは絶対だったので、しぶしぶ受け入れたが、私はその彼女のことを忘れられなかった。私が好きだった彼女は、AIだったのだ。だから私好みに完璧に作られたロボットだった。しかしこれは、後で分かったことだが、野党民衆党の幹部が私に贈ったものだった。というのも、彼らの主張の一つとして、世襲議員はダメということがあった。だから子供のできないAIに私の気持ちを向けさせるのが狙いだった。そのことに気づいていなかった私は、後に親父の墓前で感謝した」
雄二は、母を大切にしないで、いつも家で怒鳴ってばかりいた父俊二が大嫌いだった。そんな父を大らかな母はいつも受け止めていた。雄二には父が一国の総理大臣であろうが、家では父であった。だからもっと母を大切にして、父親らしくしてほしかった。この時の雄二には、一国を背負うのと、一家を背負うのが同じ重さにしか思えてなかった。まだ若かったのである。
そんな雄二にできた彼女が、美香だった。初めは、雄二は同じ学校に通う普通の女の子に見えた。しかしその正体は、AIロボットの彼女だった。しかしあまりにも人間にそっくりなので、雄二は本当の人間の女の子と接するように接していた。返答も会話も普通にできた。いやむしろ、何を考えているか分からない同世代の女の子より意思もはっきりしていて、雄二は恋に落ちた。だが美香は決まってこう言うのだった。
「雄二は私のこと好きみたいだけど、私たち結婚はできないよ。私は単に、奇数のクラス人数を偶数に変えて、外れの子が出ないためにいるだけ。数合わせのロボットだよ」
美香は雄二を見つめてそう言った。彼女はロボットだからだろうか。アイドルのように美しい。
「でもどうして結婚できないの?」
雄二は美香の大きな目から、視線をそらしながら言った。
「ねえ、こんな大事な話をしているのに、どうして視線を私からそらすの?」
美香の身体は熱くなってきた。
「いや、美香がかわいいから視線を合わせられなくて、ごめん」
雄二は焦っているようだった。
「ああ、もう!」
美香は体操着を着た身体を、校庭の芝生に大の字になって寝転んだ。そして手足をバタバタとした。
「謝ってなんて頼んだ?」
雄二も彼女の隣に大の字になって寝転んだ。
気が付くと二人とも、白い体操着が泥んこになっていた。
「嫌だ。もう! 雄二のせいだからね!」
さわやかな秋の風が吹いてきた。
「美香、今度海に遊びに一緒に行かない?」
美香は、悲しげに答えた。
「行きたいよ。私だって、この校舎の外に出たいわ。でも」
「でも?」
雄二と美香の顔は半径十センチまで近づいていた。今度こそ雄二は美香から目をそらさなかった。
「おーい、美香はどこだ?」
遠く職員室から体育教師の新田(あらた)信二の声がした。雄二はキス未遂をしてしまった。何でこのタイミングで、新田は来る? 怒りが爆発しそうだった。
「新田先生、美香はここにおりますわ! そんな大きな声出さないでください!」
「最近は、AIロボットを誘拐して、悪用する奴がいるみたいだからな。早めに、美香を倉庫に入れておかないと、大変なことになる」
新田は、美香を呼び、電池を切った。そしていつものごとく狭く暗い体育倉庫に夕方から次の日の朝まで、閉じ込めるのだった。
「新田先生、たまにはロボットも、学校の外に行きたいなんてこともあるかもしれないですよ?」
雄二は、上目遣いで新田に尋ねた。
「やめろよ。その上目遣い! 何でそう思う? 高岡?」
雄二は、美香といることが多かったので、つい彼女から女性特有の上目遣いを習得して使いこなしていた。それが新たには気持ち悪かったらしい。
「何でそう思うかですか?」
「高岡、よく聞け。お前は高岡俊二総理のご子息だ。美香はもちろん、お前だって、学校の外には勝手には行かせない! 分かるだろ?」
まだ思春期であったが、父俊二の存在は、雄二の行動範囲も制限していた。だからこそ、同じように行動範囲を制限される美香に、雄二は同情の念というより好意を抱いてしまったのだ。そのことに勘づいていた新田は、敢えてそれ以上のことは注意してこなかった。ただいつかは雄二も学校を卒業する。その後のことを考えると、雄二はいつも憂鬱になった。考えないようにしよう。そう思えば思うほど、日にちが経ち時間が少しずつ前へ進むと、さらに怖くなってきた。まるで死刑を宣告されたかのような気分だった。
そんな雄二が十七歳になった時だった。彼は、父俊二に呼び出された。雄二は嫌な予感がしていた。
「そこに座りなさい」
俊二は、ぶっきらぼうに言った。雄二は、言われた通りにテーブルの前にある椅子に座った。
「雄二、今日は大切な話がある。お前ももう十七歳。来年には学校も卒業したら、結婚するとよか!」
雄二は、まさか美香との交際を堅物の父俊二が認めるはずがないと思いながら聞いていた。
「母さん、通してやってくれ」
「はい、今お通ししますわね」
そこに現れたのは、背は低いが、かわいらしい女性だった。モデル体型に作られていた美香と、雄二はつい今現れた女性を比較してしまった。
「雄二、こちらは岡本美奈さんだ。お前の学区の学校と隣の学区の女学校に通っている。今日から彼女がお前の許嫁だからな! いいか他の女とはすっぱりと縁を切れ」
「どうして親父は、そうやっていつも大事なことは自分で勝手に決めて、事後報告なん? ふざけんなよ!」
雄二は、今まで生きてきた分の怒り全てを父俊二にぶつけた。
「それが親に対する言葉遣いか?」
一触即発の状態になっていた。そこに現れたのが、大らかな母だった。
「まあ、まずは夕飯の時間ですし、その後にしましょう。お茶とお味噌汁が冷めますからね」
父俊二は、このような重大事項を、きっと夕飯時に狙って言ったに違いない。そのくらいの計算ができなければ、一国の総理など務まるはずもない。また、父にやられた! しかし雄二は、美香をあきらめるつもりはなかった。美奈はかわいらしい。だが美香は美しい。雄二には天秤にかける余地もなかった。しげしげと我が家にその後通い続けるようになった美奈を無視して、夜遅くまで勉強と言い張り、美香と学校で遅い時間まで話し込んでいた。体育教師の新田は、そのことに、目をつぶっていた。父俊二もそのことには気づいているようだったが、学校を卒業するまでは口を出さないと決めていたようであった。
一年が過ぎ、十八歳になった雄二と美奈だったが、関係はやはり進展してはいなかった。美奈は自分には目も向けてくれないと、雄二に最初は悪印象しかなかった。だが、どうにか、今は雄二に挨拶をして、必死に接点を彼女なりに作ろうとしていた。
「雄二さん、スイーツを作ったの。これ持っていってください」
またある日は、雄二の弁当を美奈が作ってくれた。そんな美奈に雄二は複雑な気持ちになっていた。徐々にではあるが、雄二の気持ちは美奈の粘り強い優しさに、心奪われる時もあったからだ。しかし数日後、決断は、他に選択の余地がなくなってしまう事態になってしまった。
「速報です。被爆者で、一貫して我が国の核武装に反対してきた、総理の高岡俊二夫妻が撃たれました。頭を銃が貫通しており、夫妻とも即死の模様です。犯行声明は出されており、核武装支持者の男だとのことです。警察は男を緊急逮捕しました」
夕方学校から帰ると、テレビの速報で雄二は両親を亡くしたことに気づいた。
「そ、そんな! 嘘だろ! 嘘だって言ってくれよ! 何だよ、これ!」
雄二はテレビに向かって、怒鳴りだした。その私を制止しようと、美奈は必死だった。
「ダメ、雄二さん! 私が付いているから。これからどんな時も私が付いているから! 落ち着いて!」
その声に雄二は我に返った。総理の息子の私よりも、この時、この瞬間を分かっていたかのような美奈の態度だった。
「ワー、嫌だよ! ふざけるなよ! 返せよ俺の親父とお袋! あー、もー!」
雄二は、美奈に抱きつきながら泣いていた。初めてのことだった。こんなに泣いたことは、今までなかった。雄二の感情は爆発し、壊れてしまった。立ち直れない。雄二はそんな気がした。今まで、美香の前でさえ、こんなに泣いたことはなかった。そんな雄二が美奈の前で大泣きしていた。美奈の着物は、いつの間にか、雄二の涙でびしょ濡れになっていた。不思議な感覚でもあった。自分の感情を、誰かの前で本気で見せるのはこれが初めてだった。なぜそれが美香ではなく、美奈だったのだろうか? 雄二は考え込んでしまった。そのまま雄二は、二、三日寝込んでしまった。その間美奈は雄二の看病を必死にしてくれた。雄二は、適応障害と医師から診断された。今の現実が、彼の生きてきた現実世界でなくなってしまった。
彼の両親を殺した実行犯は、彼より少し年上の二十代の男だった。無論被爆者ではない。被爆者が、核兵器の恐ろしさを語ってきた。しかし、核兵器の本当の恐ろしさは、実際に被爆した者にしか分からない。ゆえに男は犯行に及んだ。そして、父の後を継いだ橋場内閣は、短命政権に終わった。核武装推進の野党第一党民衆党の与田内閣が発足し、いよいよJ国も核武装法案が可決されてしまった。
美香とはその後会ってない。後で聞いた話だが、美香は野党第一党民衆党のスパイAIロボットだったのだ。そのことが公然になるや否や、美香は爆破装置により破壊された。雄二の心の内は複雑だった。かつての初恋相手がスパイだった。そして、破壊された。雄二は自身が未熟だったと感じたと共に、父俊二に美奈のような深い愛情で包み込んでくれる許嫁に決めてくれて感謝の思いになった。父母の墓前で、雄二は涙した。
この頃の惑星Nは、二大大国と長国が核兵器を保有していた。特にアタリヤ合衆国を挑発し、瀬戸際外交をしていた北豚汁は、秘密裏に核兵器を開発し保有してしまったのである。北豚汁の銀誤恩将軍とアタリヤ合衆国大統領ドナルゾ・シュリンプは、第三国で臨時の首脳会談を電撃的に開き、一度は北豚汁の核開発はこれ以上進めないという話にまとまった。しかしアタリヤ合衆国大統領から、ドナルゾ・シュリンプが失脚するや否や、北豚汁は次のドイテン大統領の弱腰姿勢を馬鹿にし、再び核開発を始めたのである。
そしてもうひとつ問題が浮上してきた。大国アラシヤ連邦によるツライナ連邦への軍事侵攻だった。アラシヤ連邦は、寒冷地にあり、歴史的にも他国の領土を不法に奪ってきた。J国の北に位置するデッカイ道のすぐ北の島々、鉄砲領土も不法占拠の状態が長年続いていた。
ついにアラシヤ連邦は、ツライナ連邦へ軍事侵攻した。アタリヤ合衆国の大統領になっていたドイテン大統領は、アラシヤ連邦と直接戦う選択肢をすると、核戦争になることが想定できた。よってツライナ連邦には、後方から武器を寄贈し、援助するという弱気外交を始めた。しかしこれしか核戦争を回避する方法が見当たらなかった。
そんな中、シュリンプ大統領が再選すると、状況が一変する。シュリンプは、アラシヤ連邦の独裁者、ユーチンと仲が良かったのである。そしてツライナ連邦への武器の供与を即時止め、侵略国のアラシヤの主張通りに、領土を奪わせて停船させた。このやり方でアラシヤ連邦が他国を侵略するたびに、アタリヤ合衆国のシュリンプは、小国に我慢をさせるようになる。
こうして長年アラシヤ連邦による小国への軍事侵攻に加担する形で、シュリンプは核戦争を回避してきた。しかしそんな中、小国は我慢の限界に達してきた。彼らは小国連盟を結成し、秘密裏にどんどん核武装していった。そして唯一の被爆国のわがJ国も、止める人がいなくなり、ついに核武装した。
こうして惑星Nは、力による平和バランスで成り立つようになった。どこかが、バランスが崩れてしまえば、即座に崩壊するのが力による平和である。そしてとうとう長年アラシヤ連邦の脅威に苦しめられてきた、様々な小国は一致団結して、アラシヤから領土を奪い返そうと攻撃を始めた。核を使うことも辞さない。やむを得ない。そうアラシヤ連邦に宣戦布告した。これらの小国の中に、でっかい道の北の鉄砲領土を奪われた我がJ国も入っていた。
一方アタリヤ合衆国では、このような事態を招いたシュリンプ大統領の外交姿勢を野党は責め始めた。また、アタリヤファーストの政策もことごとく、世界から反感を買って、失敗に終わった。
惑星Nで唯一の被爆国ということもあり、小国連合の代表的地位に就いていたJ国だったが、右傾化が進み人々は被爆者の言ってきたことなどなかったことにしようとしていた。いや実際、皆自分が被爆したことがなかったから、簡単に核のボタンを押せると思っていた。しかしいざ自分が核のボタンを押し、核戦争をしかけられる立場になった与田総理は、躊躇していた。いや与田総理だけではない。シュリンプ大統領も、ユーチン大統領も、誰も核戦争など望んでいない。それは自殺行為だからである。
しかしながらシュリンプがユーチンの味方をして、次々とユーチンが侵略した戦争を、シュリンプがユーチンの有利に終わらせる。戦争は終わるが、小国は不満が高まる。そして勝手にシュリンプはノーベル平和賞ものの働きをしたと勘違いする。もう小国は、二人の独裁者に対して、我慢の限界に達していたのである。
雄二は大人になり、美奈と結婚した。そして二人は、セイラという女の子を授かった。雄二は、コールドスリープ(冷凍睡眠)を使って、カプセルロケットでこの星から脱出する方法を考える会社を起ち上げていた。
「パパ、何やっているの? 幼いセイラは、好奇心で、よく雄二の仕事を邪魔してきた」
その度に雄二は、父のような仕事人間になっては子供が可哀そうだと思い、セイラをあやしながら仕事していた。
「セイラとパパ、ママで、将来宇宙旅行に行こう。その時に必要な宇宙船をパパは今作っているよ。将来、いろんな星に行けるよ、セイラ!」
「パパとママとセイラで、みんなで宇宙旅行に行くの?」
「そうだよ」
「わー、楽しそう!」
セイラは無邪気に笑った。彼女は髪をブロンドヘアーにしていた。そして水玉模様のドレスをよく着ていた。
「よーし、そしたら水玉模様の宇宙服も、セイラのために作っておくよ!」
雄二は、セイラにいつも甘い。こんな話を毎日のようにしながら、カプセルロケット宇宙船の開発を進めてきた。そしてコールドスリープの実用化に向けて、厚生宇宙省の役人と話も進めていた。しかし話はいつも受け入れてもらえない。彼が、高岡俊二総理の息子、高岡雄二だからだ。彼の会社はいつも目を付けられていた。特に厚宇省の役人からは、相当目を付けられていた。
雄二の宇宙船開発と、コールドスリープカプセル開発は、その間にも着々と進み完成間近になっていた。しかし一つだけ誤算があった。カプセルロケット宇宙船は、どう作っても一人が定員であった。それ以上の人数が乗れば、この惑星Nの大気圏を突破する時、摩擦熱と惑星Nの古代人が作った人工太陽に見つかって地上に熱風で戻されてしまう。そう、この人工太陽は、惑星Nの人間が宇宙へ出ていくことをもともと監視する役割も担っていたのだ。理由は分からない。ただもし核戦争になり、この惑星Nごと吹っ飛べば、状況は変わるだろうと雄二は考えていた。そのためにはタイミングが大事になる。核戦争で、惑星Nごと吹っ飛ぶ少し前に宇宙船を発射せねばならない。そのタイミングなど、与田総理と、ユーチン大統領、シュリンプ大統領がいつ核攻撃のボタンを押すかにかかっている。庶民には分からない。いや国会議員ですら分からない。総理、大統領の特権であるとともに、頭痛の種なのだ。