親愛なるオリヴィアへ

 もう届いているか届いていないかなんて気にしないであなた宛てで書くわね。
 コカ・コーラの瓶の素材もデザインもずいぶん変わったわね。
 昨日、未開封のコーラの瓶が流れ着いたの。
 この手紙を入れているのとは別の瓶よ。

 未開封のコーラね、賞味期限が二〇二X年ってなっているの。
 ねえオリヴィア、今って西暦何年なのかしら?
 大いなる種族のみんなに訊いても答えてくれないの。
 どうして隠すのかっていったら、やっぱり――
 わたしが思っている以上に――
 わたしが知ればショックを受けるぐらいに――
 わたしがアトランティスに来てから長い時間が流れてしまったってことなのかしら――

 ねえオリヴィア、わたしたち、おばあちゃんになってもずっと友達だって話した日のこと覚えてる?
 このコーラの賞味期限がすでに切れているのなら、オリヴィアは百歳を越えていて、さすがにこの世にいないのかしら――?



 わたし、決めたわ!
 文字にしたことで決心が固まったの!
 アトランティスを抜け出して地上へ行く!
 見張りは厳しいし海は広いけれど、わたしにはクトゥルフの力があるんだもん、きっとへっちゃらよ!
 ハワイの人たちは前に怖がらせちゃったから、今度は逆の方角を目指してみるわ。
 そうするとニホンに着くことになるのかしら?
 それも楽しみね。

 ニホンに着いて、今がいつか調べて、このコーラがまだ飲めるようならオリヴィアと二人で飲みたいわ。
 もしも今が二〇二X年を過ぎているなら、わたし、このコーラを思いっきり振ってから蓋を開けて中身をまき散らしてやるわ。
 そして――そしてね――
 もしも時間が流れすぎていて、逢いたい人にもう逢えないなら――

 ああ、神さま! わたしは今、とても恐ろしいことを考えています!
 まるでクトゥルフの肉体がわたしの心を侵食しているみたい!

 海が汚されて悲しいのに、自分がニンゲンじゃなくなってしまって悲しいのに、この上にオリヴィアがすでに死んでいるなんて悲しみまでが重なったら、わたし――わたし――

 クトゥルフがやろうとしていたことを、わたしがしてしまうかもしれないわ――


キャロラインより