ではここで、さっきちょっとだけ見せたオリヴィアの遺品のメモ帳の続きを読んでみよう。
1.
サン・ジェルマン・ルルイエとパトリシア・ルルイエは新婚旅行で世界一周へ。
エジプトやインドの奥地などを巡ったとされるが詳しい足取りは謎。
アメリカ・マサチューセッツ州でパトリシアは一人息子となるヘンリーを出産。
ほどなくしてパトリシアとヘンリーの二人だけでイギリスに帰国。
以降、サン・ジェルマン・ルルイエ伯爵の消息を知る者はない。
2.
ルルイエ伯爵の失踪後、トーマス(パトリシアの父)の商売は再び暗転。
トーマスはパトリシアの再婚を促すためとの名目でパトリシアのブルーダイヤを取り上げて宝石商へ売却する。
宝石商を通じてブルーダイヤを購入した人物はその三ヵ月後、トーマスのもとを訪れてブルーダイヤをつき返した。
いわく、このダイヤを受け取った婚約者が三人も立て続けに死亡した。
ブルーダイヤを贈られた三人はいずれも若くて健康な女性だった。
二人までは不運な偶然と捕らえていたが三人も続くのはさすがにおかしい。
なお、宝石商もブルーダイヤの売却直後に死亡した模様。
ブルーダイヤの購入者が高齢の富豪だったこともあり、このニュースは新聞などで大きく取りざたされた。
この時期の報道以降、パトリシアのブルーダイヤは『呪いのダイヤモンド』と呼ばれることになる。
3.
その後もトーマスは事業の資金繰りのめどが立たず、再びブルーダイヤを別の宝石商に売却。
一年後、トーマスの商売が好転し、ブルーダイヤを買い戻せるだけの余裕ができる。
その間、パトリシアはずっと塞ぎ込んでいたとされる。
トーマスはブルーダイヤはとっくに売れてしまっただろうと考えつつも、パトリシアをあきらめさせるためにパトリシアを連れ立って宝石商を訪れた。
意外やブルーダイヤは店の奥に仕舞われていた。
店主いわく、売れなかったのではなく何度も売れたのにその度に戻ってきたとのこと。
店頭に展示された呪いのダイヤは度胸試しや迷信に惑わされない聡明な人間であることの証明になるとして注目を集めた。
しかし羽振りが良かったはずの購入者のいずれもがブルーダイヤの購入直後に事件、事故、病などに見舞われて急に金が必要になり、買ったばかりのブルーダイヤを再び売りに来たと言う。
トーマスの商売が好転したのは、トーマスの商売敵複数名がブルーダイヤの購入直後に破産していたためだった。
4.
その後の四十年以上、ブルーダイヤがパトリシアの指を離れることはなかった。
孫のヘンリーが成人するまでの間にトーマスは莫大な財産を築いた。
呪いに結びつけられるような悲劇は四十年以上起きていないが、呪いの噂は未だに消えていない。
5.
――ちょっと待ってオリヴィア。呪いの噂が消えていないって、あなたみたいなのが掘り返してるからでしょ?
――うっすらと聞いたことがあるって程度よ。親が子供に教えるような話じゃないでしょ? お金持ちのおじいさんが若い女性を三人も、って……
――トーマスとかイザベラとか、わたしのひいおじいちゃんとひいおばあちゃんでしょ? 二人とも、とっくの昔に亡くなってるわよ。
――死因なんて知らないわよ。年だし普通に死んだんでしょ。
そういう失礼な言い方をするんだったら、もうこの遊びにはつき合わないわよ!
――わたしが知ってるのは、ルイーザがうちに来て、ママが死んで、パトリシアおばあちゃまの痴ほうが始まったことだけ。
――転校したてのころとかクラスでこの話題が出そうになると先生がすごく怒ったわね。
それでもイジワルなコはしつこく訊きたがったけど、わたしだってほとんど知らないわけだから、みんなすぐに興味をなくしたわ。
――もちろんあなたもイジワルなコよ。
――冗談よ。
1.
サン・ジェルマン・ルルイエとパトリシア・ルルイエは新婚旅行で世界一周へ。
エジプトやインドの奥地などを巡ったとされるが詳しい足取りは謎。
アメリカ・マサチューセッツ州でパトリシアは一人息子となるヘンリーを出産。
ほどなくしてパトリシアとヘンリーの二人だけでイギリスに帰国。
以降、サン・ジェルマン・ルルイエ伯爵の消息を知る者はない。
2.
ルルイエ伯爵の失踪後、トーマス(パトリシアの父)の商売は再び暗転。
トーマスはパトリシアの再婚を促すためとの名目でパトリシアのブルーダイヤを取り上げて宝石商へ売却する。
宝石商を通じてブルーダイヤを購入した人物はその三ヵ月後、トーマスのもとを訪れてブルーダイヤをつき返した。
いわく、このダイヤを受け取った婚約者が三人も立て続けに死亡した。
ブルーダイヤを贈られた三人はいずれも若くて健康な女性だった。
二人までは不運な偶然と捕らえていたが三人も続くのはさすがにおかしい。
なお、宝石商もブルーダイヤの売却直後に死亡した模様。
ブルーダイヤの購入者が高齢の富豪だったこともあり、このニュースは新聞などで大きく取りざたされた。
この時期の報道以降、パトリシアのブルーダイヤは『呪いのダイヤモンド』と呼ばれることになる。
3.
その後もトーマスは事業の資金繰りのめどが立たず、再びブルーダイヤを別の宝石商に売却。
一年後、トーマスの商売が好転し、ブルーダイヤを買い戻せるだけの余裕ができる。
その間、パトリシアはずっと塞ぎ込んでいたとされる。
トーマスはブルーダイヤはとっくに売れてしまっただろうと考えつつも、パトリシアをあきらめさせるためにパトリシアを連れ立って宝石商を訪れた。
意外やブルーダイヤは店の奥に仕舞われていた。
店主いわく、売れなかったのではなく何度も売れたのにその度に戻ってきたとのこと。
店頭に展示された呪いのダイヤは度胸試しや迷信に惑わされない聡明な人間であることの証明になるとして注目を集めた。
しかし羽振りが良かったはずの購入者のいずれもがブルーダイヤの購入直後に事件、事故、病などに見舞われて急に金が必要になり、買ったばかりのブルーダイヤを再び売りに来たと言う。
トーマスの商売が好転したのは、トーマスの商売敵複数名がブルーダイヤの購入直後に破産していたためだった。
4.
その後の四十年以上、ブルーダイヤがパトリシアの指を離れることはなかった。
孫のヘンリーが成人するまでの間にトーマスは莫大な財産を築いた。
呪いに結びつけられるような悲劇は四十年以上起きていないが、呪いの噂は未だに消えていない。
5.
――ちょっと待ってオリヴィア。呪いの噂が消えていないって、あなたみたいなのが掘り返してるからでしょ?
――うっすらと聞いたことがあるって程度よ。親が子供に教えるような話じゃないでしょ? お金持ちのおじいさんが若い女性を三人も、って……
――トーマスとかイザベラとか、わたしのひいおじいちゃんとひいおばあちゃんでしょ? 二人とも、とっくの昔に亡くなってるわよ。
――死因なんて知らないわよ。年だし普通に死んだんでしょ。
そういう失礼な言い方をするんだったら、もうこの遊びにはつき合わないわよ!
――わたしが知ってるのは、ルイーザがうちに来て、ママが死んで、パトリシアおばあちゃまの痴ほうが始まったことだけ。
――転校したてのころとかクラスでこの話題が出そうになると先生がすごく怒ったわね。
それでもイジワルなコはしつこく訊きたがったけど、わたしだってほとんど知らないわけだから、みんなすぐに興味をなくしたわ。
――もちろんあなたもイジワルなコよ。
――冗談よ。