親切などなたかへ
 もしもこの手紙を拾ったら、イギリスのオリヴィア・ジョーンズに届けてください。
 お願いします。


親愛なるオリヴィアへ
 わたしよ。キャロライン・ルルイエよ。
 きっと心配していると思うけれど、わたしは元気だし、こうして手紙を書けるぐらいには自由よ。
 自由だけどイギリスに帰れるほどに自由ではないの。
 けれど詳しく書くのはやめておくわ。
 この手紙を拾った人にイタズラだと思われてしまったら困るもの。
 わたしは生きてる。
 でも帰れない。
 前に手紙に書いた若草物語の本、大事にしてね。

キャロラインより
 本当よ。





親愛なるオリヴィアへ

 数え切れない手紙を海に流して、どれか一通でもあなたに届いてくれてるかしら?
 無駄なのかなと思いつつ、新しい瓶が手に入ると、どうしてもまた書きたくなってしまうのよ。
 どの瓶も地上の人間たちが海へ捨てたゴミよ。
 最初のころは従者が瓶を拾ってくるたびに小躍りして喜んでいたけれど、いいかげん人間たちのマナーの悪さに腹が立ってきたわ。
 そのおかげでこうしてあなたへの手紙を書けているのだから、ゴミ捨て人への感謝を込めて、その人たちが死後に地獄へ落ちないように祈ってあげてはいるわよ。
 死なない程度にひどい目に遭えばいいとも思うけど。

 ああオリヴィア、わたしがこんな言葉を書くなんて、あなたはびっくりするかしら。
 わたし、ここで暮らしているうちに、いくらか性格がゆがんでしまったみたい。
 決して居心地が悪いわけではないのよ。
 みんなとても親切。
 わたしは女王さまみたいに扱われているわ。
 ただね、やっぱり、ここはわたしのいるべき場所ではないと思うの。
 それでもここからは離れられないのよ。

 あなたに会いたいわ、オリヴィア。
 パパやアデリン叔母さまにも。
 叔母さまはどうしているかしら。

 キャロラインより