あ、これは盗聴データね。
 盗聴なんて悪趣味だなんて、今さら言わないよね?




ルイーザ「ここまで付き合ってくれたこと、感謝しているわ」

キャロライン「なぁに? 改まって」

ル「今が感謝と謝罪の分かれ目だと思うの。この先で待っているモノをアナタに見せてしまったら、ワタシはアナタに感謝ではなく謝罪をしなければならなくなる」

キャ「気にしなくていいわよ。わたしは自分で決めてここまで来たんだから」

ル「流されただけでしょ」

キャ「まあね。でも逃げなかったことを誉めてほしいかな? 少なくともあなたの前では泣き言も言っていないはずだし」

ル「泣き言を言える相手……誰かいる?」

キャ「いるわよ。親友のオリヴィア」

ル「いつも手紙を送っている相手?」

キャ「ええ」

ル「少しうらやましいわ。わたしには友達は……小さいころはいたけど自分で拒絶してしまったから」

キャ「どうして?」

ル「ワタシがサン・ジェルマンを好きでいることをみんな馬鹿にするから」

キャ「ああ! パトリシアおばあちゃまの恋物語! 子供のころのあこがれだったの! わたしも大人になったら素敵な恋をするものとばかり思っていたのに……」

ル「まだ先ね」

キャ「ムッ」

ル「それにワタシとあの人の関係は、他の人にオススメできるようなモノではないわ」

キャ「聞かせて! おばあちゃまとおじいちゃまのお話!」

ル「そうねえ……」

(しばしの沈黙。
 波の音)

ル「恋をしている人間は、気を抜くとすぐに想い人のことを考えるものなの。
 例えばほら、その辺の茂みで物音がしたとして、虫が怖ければ虫がいると思うし、強盗が怖ければ強盗がいると思う。
 クトゥルフが怖ければクトゥルフがいると思う。

 クトゥルフがいると思うことで、意識の中にクトゥルフがはびこり、やがて意識を闇に飲み込まれる。
 けれど恋をしている人は何に怯えることもなく、物音がすればそこに想い人がいるんじゃないかと考えるものなの。

 闇に囚われた幼いころから、ワタシはそうやって自分の心を守ってきたわ。
 でもそれは……ワタシが十九歳のときにサン・ジェルマンと再会を果たして……
 結婚をしたことで崩れた」

(波の音。
 海鳥の声)

ル「新婚旅行は闇を払う手がかりを求めて世界中の聖地を巡るものだった。
 ギリシャの神殿やエジプトのピラミッド。チベットの山奥。誰も知らない砂漠の都。
 夫婦でもない男女が二人旅をすることに今以上に厳しい時代だったから。
 結婚は旅の手続きをスムーズに進めるため。
 誓いのキスを、お仕事あとで謝られたわ。

 サン・ジェルマンがワタシに向けたのは愛ではなく憐れみ。
 サン・ジェルマンが恋しているのはアトランティスの女王様だって打ち明けられた。
 あの人の中のワタシは六歳の幼子のまま。
 自分に本気で恋してるなんて夢にも思わず、女王様への想いをべらべらしゃべってくれたわ」

(沈黙。
 波音)

ル「ねえ、信じられる?
 ワタシ達が今こうしている間も、女王様はクトゥルフと戦い続けているそうよ。
 人類が誕生するはるか以前から今に至るまで。
 なんてノロマなのかしら!
 ねえキャロライン、ワタシ、自分が女王様よりも優れているってサン・ジェルマンに見せつけたいの!
 そのためにクトゥルフをワタシの手で倒すのよ!」




 さてさてこれから二人が乗り込むのは、魚人の巫女の肉体を乗っ取ったポワカの手による、クトゥルフ復活のための生け贄の儀式!
 ルルイエ姉妹によるサン・ジェルマン救出作戦は果たしてうまくいったのか?
 きみも気になる結果はこちらさ。